第2話・不協和音
王家の血の回帰・・・王は即位後、まもなくその方策に打って出た。
千年の歴史の中で東・西・南の各地に分家した各領主家から、特に王家の血筋の濃い娘を一人ずつ迎え入れ、その娘との間に子を儲けたのである。
結婚は各領主に配慮し、側室ではなく多重婚という形で執り行われ、全ての娘は立場を等しくする王妃となった。
長男は東の領主家より嫁いだ第一王妃スズの息子カルダス。
次男は南の領主家より嫁いだ第二王妃アリナの息子エミリオ。
そして末の妹マリアは、西の領主家より嫁いだ第三王妃カーシャの娘である。
しかしここは千年も間、外界より閉ざされた国。
血を守るための苦肉の策であったこの多重婚劇は、保守的な国民の間に非常に耳通りの悪い不協和音を奏でさせる事となる。
(今度の王様は相当な好色らしい。)
(なんでも毎晩3人の王妃と夜を過ごされているらしいな。)
(それどころか宮中の女にも手を出してるって話だぜ?)
娯楽という娯楽のないこの国の人々にとって、相次いで行われた王の結婚は最高のスパイスとなった。
噂を吹聴する者には厳罰が課せられたが、抑圧は燃料となり、さらなる悪評を呼ぶ事となった。
一方、王室初の多重婚は不協和音を王室内にも生じさせていた。
第一王子カルダスの母スズは気が強く、元々王家との結婚話には消極的であった。その反動もあったのだろう、王子を産んだ後は権力への欲が強く表れるようになり、息子を溺愛した一方で、弟エミリオや妹マリアには冷たく振る舞う事が多かった。
母に溺愛されたスズ王妃の息子カルダスは、身体が大きく、性格も母に似て気が強く強権的で、剛毅な男に成長した。
第二王子エミリオの母アリナは、王の事を好いていたが故に、先に結婚したカルダスの母スズの存在に遠慮し、委縮した。一方で、王子エミリオを産んだことでスズ王妃から事実上の王位継承の妨げになるとライバル視され、また時には王と相思相愛の関係を嫉妬されたりもした。二人の王妃の不仲は街中にまで響き渡ったという。
気の弱いアリナ王妃の息子エミリオは、身体の強い兄に対抗して学問に没頭し、母思いだがどこか捻くれた、卑屈な男へと成長した。
末の王女マリアの母カーシャ王妃は、些細な事にも気が利き、王城内でも広く愛される女性であった。女児を産んだことでスズ王妃の矢的に立つことはなく、気を揉むアリナ王妃の良き相談役として、二人の間の関係を取り持った。
しかしながら、多方面への気配りが利く性格が災いし、王室内に於いて最も心労を背負い込んだのは、実はこのカーシャ王妃だった。
そして、母の苦労を知りしながらも、二人の兄に愛されたマリアは、母同様に、優しく美しい娘と成長してゆく・・・。
しかし、王と3人の王妃とその子供たちの関係もまた、期待された湖霊セルベルとの儀式の失敗により、瓦解してゆく事になる―――。
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