二十七、連動式リドル
休日。今日も今日とて駅前に朝方、ジュジュはやって来る。ラドクリフ隊長はくたびれた顔で缶コーヒーを飲んでいる。
「隊長、気になったのですが、わたし以外のメンバーはどうしているんですか? 会ったことないです」
「そんなことを気にする段階か? 仕事に慣れてきたって感じだな。まあ大した奴らじゃあないぞ。この担当区画に散らばってるから全員揃うのは稀だな。そんなに会いたいのか?」
「いえ、別に会いたいわけでは」
「まあ、そうだろうな。奴らも別にお前に会いたくはないと思うし。俺にも会いたくなかろうし」
「希薄な方向の人間関係ですね」
「大都市特有だな。お前の古巣みたく毎日ドンチャン騒ぎしてるわけでもねえ。三十二番のやつらみたく一日中曖昧模糊な霧の中にいるわけでもねえし、七十九番みたく兄弟の契りを結んだわけでもねえ。俺たちを結び付けてるのは仕事だ。仕事をしろ。大切なのはそれな」
隊長から授かった任務は「青い花」を摘んで持ってくるというものだった。
そこらへんの雑草に混じって、名も知らない小さい青い花が生えているはずだ。
探して歩いていると、道路が渋滞しており、なにごとかと思えば、〈第一〉の英雄と思しき兵士が、大通りのど真ん中で大立ち回り、全身に包帯を巻きつけられたような巨人に必殺技をぶつけまくっているが効果がないようだ。
アリスと同じく犠牲覚悟で自己を強化しまくって大技をぶつけるタイプのようで、呪文と投薬によるマナ強化をその手段として用いる。恐らくは〈鉛丹〉クラスの使い手だ。〈破断〉を連続で放つが巨人を素通り、狼狽しながら「俺はあの日誓ったんだ……こんなところで負けるわけには」などと過去を匂わせる発言をするなど色々がんばっていたが相手に近づきすぎ、攻撃を〈閃光〉でもかわしきれず押しつぶされ、〈鋼壁〉や〈空蝉〉でなんとか持たせていた。
ジュジュは道路の混雑を見かねて彼を引っ張り出した。
「何をするんだ! 今から〈赫無〉を放ちやつを灰と化すのだ! そう、あの時〈跼天のジョアン〉がしたように」
「その人が誰か知らないですけど〈赫無〉は二十メートル以上対象から離れていないと危険な形式の技な上、援護もない今のあなたのマナでは不発がいいところでしょう。それに恐らくあの怪物は〈条件型リドル〉なので力押しは無理だと思いますが」
「馬鹿な! 俺はこれまで五億以上のリドルを解明し、市民からは南六番街で最強と言われているのだぞ!」
「いやたぶん無理です、どうしようかな、とりあえず休んだほうが良いですよ、あと青い花があったら教えてくれませんか」
ジュジュはあの型のリドルを受け持っているのが何番隊か知らなかったが、とりあえず脳内で助けを呼んだ。最強の人を。
すると師匠に授かった特別な力により、対応者が現れた。
そいつは髭をたくわえた、彫りの深い男だ。歩き煙草で、イェーガー副長の二倍以上の煙さ。その雰囲気は歴戦の兵のそれだ。
「な、何奴」南六番街最強の男が尋ねる。通りすべてを紫煙で包まんばかりに男は煙を吐いて、名乗った。
「八十四番連隊所属、アーノルド・ゴッドウィン。オレが来たからには安心しな、やつなんざ日に六体は倒してるぜ」
「俺など日に六百体は倒してるぞ!」
南六番街最強の男はそう言うが、ジュジュの第一連隊時代の同僚など、日に六兆はリドルを片付けている。一番隊にとって数などもはやどうでもいいのだ。六百でも六京でも人民は賛美してくれる。
「いいか、あいつを倒すには特殊な操作が必要だ。今からやってくる」
そう言ってアーノルドはどこかへ行ってしまった。
「なんだあの男は! 操作だって? 俺があれほど必殺技をぶち込んだのに倒せなかったのだ。やつ一人にどうにかできるはずがなかろう」
しかし、巨人は突然全身から黒い血を流してぐらりと傾き、膝を着いた。
「おお!?」
「どうだお嬢さん、野郎はくたばったか?」アーノルドが戻ってきてジュジュに聞いた。
「いえ、かなり死にそうですがまだのような」
「そうか、三番をもっと締めるか。少し待ってな」
と言ってまたアーノルドがどこかへ行き、数分後巨人はばったりと倒れ、そのまま灰と化した。
「そんな馬鹿な……今までの苦しい修行はなんだったのだ。あんなどこの馬の骨とも知れない男が……」南六番街最強の男は愕然としている。
「失礼ながら言わせてもらいますが」ジュジュは言った。「彼もまたプロであってあなたと同じ都市の守護者という形式の人間です。八十四番連隊が一番連隊より劣っているということではないとわたしは思います。あの怪物は八十四番以外に倒せはしない方向性のリドル、一番隊のあなたにしか倒せないリドルがあるように。これを機に、もう一度自分の役割を見つめなおすのが良い状況ではないかと」
しばらく男は沈黙していたが、「ああ」と頷くと、戻ってきたアーノルドに会釈して立ち去った。
なぜ一番隊の人間が、自分の担当ではないリドルのいるこの場所に来てしまったのかはわからない。各自の願望がそれぞれにとって都合のいい断片を生んでいるというなら、彼は少しばかり自分と一番隊の存在意義、その英雄的な有りように疑問を抱いていたのかもしれない――スフィンクスやジュジュと同じように。彼がこれからどうするのかは分からないし、興味もなかった。
道端に青い花を発見できなかったので、わざわざ花屋に行って、プレゼント用に花束を作ってもらった。
隊長にそれを渡すと、今日の仕事はここまでだ、と言って、突然彼は、お前を副長に任命する、と宣言した。
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