二十一、解明方法

 この文明は四つ目だ。それは運命的に明らかで壮大な事実。

 前の三つは早い段階で失敗したことが明らかになったので、そのたびにローギルが降臨しすべてを焼いて、原初の状態に戻して一から始めた。そのたびに文明は前のものより進歩し、また焼かれ、今回は果たしてどうか。かなりヤバい。怪しい。危機的状況だ。なぜなら、前の文明がまだ概念的、量子的に残留しておりそれとの相互干渉によってリドルが発生しているのだ。まあつまり幽霊みたいなもので。

 それを取り除くにはローギルの使途たる聖人、救い主、イスカンダール皇子に続く英雄が必要である。

 それはこの自分である。

 だから自分は、街頭や図書館、市議会、飲食店、軍の基地などにガソリンを撒いて火を点けるのである。

 と言った内容の供述を、警官に、荷車に積んだガソリン入りポリタンクを見咎められて職務質問された聖エレオノーラはのたまった。

 スフィンクスによるテロに対して市は特別警戒中だったが、警官は「そうですか、頑張ってください」と聖女を解放し、その場でエレオノーラはガソリンを撒いてマッチで着火、車五台が燃えた。

 しかし、それらの持ち主は全員寛大な気持ちの持ち主で「いやあ、ちょうど買い換えようと思っていたところだよ」「若い人は元気があっていいね」などと彼女を許した。彼女は聖女、気高い聖職者、改革の担い手であると本人が妄信的に信じていたからだ。市民もなんとなくそうなのだろう、って気になって、彼女をありがたがった。

 しかし、市議がテレビで「貧乏人は黒パンでも食っていたら良いんですよ」と言うなり市民は激怒し、また黒パン業界の人々も差別だと憤慨、その市議の家に石、生卵、爆薬などを投げ込み、出てきた当人と家族をアサルトライフルで射殺するという痛ましい事件があった。

 これはリドルが原因だ、と判断した市当局は銀朱連隊の腕っこき〈大鉈振るいのアラミス〉に解明を依頼した。

「さて……この〈リドル〉解明は容易じゃあねえ、この俺をもってしてもだ……」

 アラミスの外套は度重なる戦いでボロボロになっており、剣も刃こぼれがひどく、髭も伸ばしっぱなし、流れ者のような外見だった。

 彼は駅の涼しい待合室に腰を落ち着け、考える。

 リドルの解明にはその中心点を探し出し、原因を注意深く観察しなくてはならない。

 巷の兵士たちが力任せに英雄性だけでぶった切っているのをよく見るが、あれは一時的にリドルを消すだけで、やがてさらに複雑で大量のリドルを生み出すだけなのだ。つまり謎が謎を呼ぶ悪循環。とはいえ面倒なので誰もそれを正そうとはしないが……

 まずは手がかりを集めることにした。集団性の無意識にアクセスする必要がある。人々の会話や電気屋の店先のテレビ、市当局からの放送、広告、それらの中に潜んでいる暗号を解読しなくてはならない。これは難題だ。しかし、昼過ぎまでかけてアラミスは対象となる人物を特定した。

 その人物のドラーク器官にリドルの根幹はある。まずはアイスピックを購入して、その後付近にいた屈強な男たちに協力してもらい、その中年男性を羽交い絞め、脳にアイスピックを突き刺すとリドルは消えた。めでたいことだ。

「ありがとよ、あんたら。こいつで一杯やってくんな」アラミスは男たちに礼金を渡して立ち去った。

 その様子を見ていたのは近所の支部の兵士たちだ。

「あれが〈大鉈振るいのアラミス〉か、たいしたことないな」と言いながら彼らは休憩を終え、流れ作業に戻った。

 支部の中には馬の骨がいくつも段ボール箱に入って並んでいる。それを取り出し、ハンマーで砕き、またダンボール箱に戻す。

 特定のリドルを解除するためにこうした流れ作業を一日十時間続ける。

 英雄的でもなく、アラミスのように頭を使う仕事でもないが、兵士たちは自分たちの手法こそが真にリドルを除く方法と確信しており、その他は一切合財、ただの一時しのぎにすぎないと思っていた。地道な作業こそが都市を維持し、さらに高めていくのだと。

 テレビの画面の中では今日も英雄が凄まじい必殺技でリドルを砕く。スフィンクスの手先はリドルを使役する。頭を悩ませ探偵じみた推理でその解体方法を究明する者もいる。地道な長ったるい作業に拠って解明する者も。なにもしなければ消滅すると言い、ずっと瞑目している兵士もいれば、人心を情報操作で動かし、潜在意識を変容させて解除に当たる者もいる。

 そのどれが正解なのかは誰も知らない。なぜなら、リドルとは何かを、誰も知らなかったからだ。

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