七、不確定リドル

 それからの数日間は出勤→適当に街をうろつき、時間を潰しつつ、リドルを倒すという意思を高め、何らかの超越的パワー(ジュジュはこれを〈飛刃〉と名づけた)で駆除→昼食→再びリドルの駆除→帰還→報告→賛美、という流れが続いた。

 ジュジュだけではなくビョルンも強大なリドルを倒しまくり、すごい、偉大、さすが、といった評価を受けている。セルマも喋るといちいちこちらの言ってることに対して反駁する以外は優れた兵士だった。チャックやバルガスといった同期やその他の同僚も毎日大きな成果を上げていた。ジュジュがテレビや新聞、インターネットで見たことのある名うての兵士として、竜型のリドル討伐に特化した〈竜狩りのダン〉ことダニエル・ハヴォック、最年少ながらリドル討伐数が支部内最大の、創設者と同じ偉大な名を持つイスカンダール、長大な槍を振るう騎士然としたエヴェリーナ、そして、毎日正午までに数多くのリドルを狩り、その後は支部内でずっと寝ている凄腕、〈午睡のベネディクト〉などがいた。

 ほとんどの隊員は午後三時か四時には仕事を終え、支部で宴会をして夕方にはもう帰宅してしまう。だらだらとした超過労働、残業が問題視される現代社会において、これほどまでに短時間で効率的に仕事を終える我らはなんとすばらしいことか、とジュジュは自画自賛した。

 ある日、強力なリドルが出現したというので、ちょっとした騒ぎになった。

「焦ることはない。普通の出来事だ、そうオレにとってはね」と言って支部へ入ってきたのはヴァインベルガー副長だ。この人物は週に二、三度しか来ないものの、その技能は恐るべきものだった。ひとたび剣を振るえば、都市の彼方のリドルさえ駆除でき、支部にいながらにして街じゅうのリドルを討伐するのだった。

 その反動としてドラーク頭痛という、ドラーク器官由来のひどい頭痛を抱えており、しばしば休む原因となっていた。

「ベリーニ観測官、この個体について教えろ。全員にだ」隊長が、黒髪で痩躯の女性に命じた。

「当該個体はテンプルストリートを下っています。量子的に不確定なリドルで、通常の攻撃は効かないと思っていいでしょうね」

「上位概念を用いる必要がある。副長、イスと一緒に出ろ。私は対象を足止めする。他の者はここで待機……いや。ビョルンとジュジュは一緒に来い。強制的命令、言うまでもないけど。了解できた?」

 隊長の命令にわけも分からずジュジュは「あ、はい」と答えた。

 ビョルンは既に準備万端って感じで、入り口で立ち逆光を浴びながらこちらを振り返っていた。

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