五、英雄的英断
最初に仕掛けたのはビョルンのほうだった。衆人環視、黒山の人だかりの中での大一番、細身の長剣をためらうことなく上段の構えから振り下ろした。
しかしジュジュは瞬間移動ともとれる高速の移動によってビョルンの背後を取り、これまたためらうことなく発砲した。
ジュジュは自ら驚愕し、困惑していた。自分はほとんど運動をしない怠惰な学生で、しかし今の俊敏な動きはどういうことか?
「既に〈因子〉が開花しつつあるな」
「銀朱流機動術〈閃光〉をいきなり使うとは」
「これは最強の新入りに一泡吹かせるかもな、あのジャッジとやら」
と解説してくれる人のおかげで、どうやら自らの内部にある何らかの因子が身体能力をものすごく上げ、新兵でありながら歴戦の
しかし、ビョルンときたら、飛来する弾丸を睨むだけで弾き飛ばしてしまった。
は? 何それ? と疑問を抱くジュジュに周囲の声が解説する。
「気だ」「なんて強力な〈波濤〉か」「因果律を操作して弾丸が当たらないように改変するとは」「さすがに一発で着弾はつまらないと見て、弾丸を外してやるとはジュジュは気の利いたやつだな」
と、解説が複数に分散していてよく分からない。
「今度はこっちの番だな……」
ビョルンは剣を再び上段に構えた。しかし、先ほどの一振りとは違い、ジュジュは非常な危機感を覚えた。
生物としての本能。自分を圧倒的に上回るパワー、そして英雄性、伝説性、説得力が剣から見て取れた。
恐らく、物理法則とか前後の話の筋とか倫理観世界観を無視して自分と建物の壁と、その背後にあるものすべてが真っ二つになることは間違いなく、その壊滅的範囲は六十キロに渡るであろうことは想像に難くない。
恐らく〈閃光〉で回避して再び彼の背後に回ろうとも、真っ二つは回避不能と判断し、ジュジュは剣を鞘に収めた。
「参りました。このくらいでいいんじゃないですか」
「確かに。余興だ、俺達の真の力は仲間ではなく、忌まわしきリドルに向けるためのものだ……このくらいにしておこう。構いませんね、シャーマン隊長」ビョルンは相変わらず冷ややかにそう言った。
「そうだ、このくらいで幕、閉め、完結、そういう結果で良いんだ、ところがビョルン。おたくは自分の圧倒的勝利という結果を確信していらっしゃるっぽいけどそうなのか? と私は疑問だよね、クエスチョンマーク付くよね」
隊長の言葉とともに支部内に金属音が響き渡った。ビョルンの剣が中ほどから折れていた。
「ジュジュの闘気が己の意思に反して、脅威を排除しようとしたんだ。〈英断〉を放っていたら、恐らくおたくも無事では済まなかっただろうな」
床に落ちた刃を見ながらビョルンは言う。「なるほど。まさかしてやられるとは。どうやら俺は最強の男とちやほやされて、多少なり調子に乗っていたようです。この刃は俺の折れた鼻っ柱と解釈し、今後は謙虚な態度、真摯な態度で生きていこうと思った、それに気づかせてくれたジュジュには感謝しようと思わなくもないです。ありがとう」
「いい勝負と言える系統の結果でした、ビョルン」
と、二人は握手を交わした。有能な新人の加入を記念して、その日は皆仕事もしないで帰った。
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