三、初出勤

 言うまでもなく銀朱連隊は英雄的であり社会的にすごく評価されてる。

 現役の隊員だけでなく一時期在籍していただけで、飲み会では持て囃されるし、一目置かれる、あそこの息子さん銀朱連隊入ったんですって、奥様も鼻が高いわね、ってな感じで。

 それは彼らが社会、世界における脅威に対し身を粉にして日々挑んでいる、まさに勇者であるからだ。

 だからジュジュの友人たちや両親、一族郎党、近所の人も、すごい、偉い、格好いい、社会貢献度高い、クール、別嬪、みたいな評価を下し、ジュジュは気分が良くピザを二枚も食べて寝た。

 朝起きて、事前に届いた装備を着用する。

 外套。英雄的、伝説的な、代名詞、専売特許の銀朱の外套。背中には短剣が刺さった太陽のエンブレムが描かれている。どういう意味かは知らないが、たぶん、ものすごいエネルギー、熱量、やる気が表現されているのだ。

 そしてこれも代名詞的、栄光に満ち溢れた、燦然たる剣。それはローギルとかローギー、ローキと呼ばれるイスカンダール皇子が口にする以前は誰も知らなかった未知の神に祝福されたらしい剣で、ジュジュは力とかあまりないので、短めの刃だった。

 もちろん国内でこんな刃物を持つことはまず許されていないが、連隊は例外である。彼らは世界を守るために戦っている英雄、勇者、正義の味方、偉人達なので、特例で許可されている。むしろ剣を持っていないと、やる気あるの? みたいに揶揄される。

 そしてガンベルトと銃。なんと実弾が撃てるのだ。しかもその使用条件は、リドルを駆除するためならばほぼ自由、白紙委託、全部OK、といった大盤振る舞い。もちろんこの国、リンダリア大帝国において銃器の使用は全面禁止、単純所持でもう駄目です、ってところだけど、銀朱連隊は英雄的、伝説的、そういったスペシャルなエリート、偉大な存在なので許されている。

 そして使い道が分からぬアイテム。薬液、呪文書、喉飴、二つのダイス、鍵束、カセットプレイヤー、封書、謎の機械など。全部何かに使うのだろう。

 真新しい制服に身を包んでジュジュは家を出て電車に乗った。

 人々の注目。羨望のまなざし。それは多少なり気分が良かったが、これからの戦いに思いを馳せると、緊張せざるを得なかった。

 英雄はただ英雄になるのではない。英雄的行いによってそう定義される。自らが投じる戦いは、謎と脅威に満ちている。

 いったい何が待っているのかまったく分からない。何を相手取るのか。何を犠牲にするのか。どういった方法で戦うのか、一切知る由もないが、それでも既に覚悟はできていた。

 ジュジュは既に、英雄たる銀朱の兵士と化していたのだ。

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