第10話会談
福岡郊外ホテルの会議場と、官邸とを繋いでの映像会議の用意が始まっている。
ディル達と官邸では言語が違う為、安藤が通訳として入る事になっている。
テスト中の映像を見てミリス達がまた、魔法機だなんだのと騒いでいたので、安藤が簡単に説明をした。
ディル達には既に安藤から、これから話す相手はこの国の政治の頂点である事、その頂点である総理大臣岸が、直接ディル達と対話の場を設けたいとの要望により、この会談が行われるとの説明がなされていた。
映像機器のチェックが終わり、画面の前を行ったり来たりしていたスタッフたちが離れる。
総理官邸危機管理センター
大型モニターにディル達5人の姿が映る。安藤も一緒だ。
五人は一斉に立ち上がり、こぶしで左胸を叩いた。
「閣下、この度はお招き頂きありがとうございます。聖クラリス帝国の勇者ディル・クライドであります。」
ディルが代表して、他の四人の紹介をする。
「総理大臣の岸総一郎です。こちらこそ、招きを受けてくれた事を感謝します。また、直接会わずに映像での面談になってしまった事をお詫びいたします。」
「私の右側、一人目が外務大臣の佐竹、もう一人が外務次官の早瀬だ。」
二人は紹介されると立ち上がり目礼して、また席についた。
「そして、私の左側、一人目が防衛大臣の押谷、もう一人が統合幕僚長の古谷だ。」
押谷、古谷は名前を呼ばれると、席を立ち、日本式の敬礼を行い席についた。
「それで、これからのことだが…」
話を続けようとすると、画面の向こうの黒いローブ、青い髪の女性が立ち上がった。
「これからの交渉は私、ミリスがするわ。勇者は遠慮がちで交渉に向いていないから。」
「そ、そうですか。分かりました。ではこれからの事ですが…」
また言い終わるうちに、ミリスが言葉を遮る。
「こちらの要求は、私達の領土をこの国からもらう事、自分たちの領土を整えるためのお金、後は奴隷も500人くらいは欲しいわ。」
とんでもないことを言い出した。いや、想定内ではあったにしろ、当然のように要求されると言葉も出ない。岸は背中にぐっしょり汗が出ているのを感じる。
「ちょっとまってくれないか、国土を割譲する事や、奴隷などというのは、もうこの国でおこなわれることではないのだよ。」
「貴方、勘違いしてる。私たちは貴方達の国を守ってあげたのよ。それに報いるのは当然でしょ。」
エミリアとキリスはうんぬんと頷いている。ディルもミリスを止める気配はない。
どうやら本気の様である。
「時間をくれないか。出来れば一か月。」
残された選択肢はもう限られている。今は時間を引き延ばして、準備するしかない。
「駄目よ。2週間よ。でも、感謝してあげるわ、ここのホテルは素晴らしいわ、プールにジャグジーにSPA食事もとても美味しいわ。本当は一週間でも十分だと思ったのだけどね。」
「分かった。一応確認しておきたいのだが、もし、間に合わなかった場合はどうするつもりかね。」
ミリスはにやりと笑った。
「この国ごと頂く事にするわ。勇者と私だけの王国にするの。」
ああ、最悪だ。期間は二週間。どうするべきか…。岸は天を仰いだ。
画面の向こうでは、勇者と私の王国の『私』を争って何やら大騒ぎをしているが気にしない事にした。
「君たちの要求は承知した。こちらにも準備が必要だ、後の細かい点は安藤君に伝えて欲しい。
必要な時はまた会議を行おう。」
「分かったわ。」
「ところで、これは私個人の質問なんだが、『勇者』という称号は貴国ではどのような者に与えられるのかね。」
今まで座って会議の様子を見ていただけのディルが立ち上がり答えた。
「聖クラリス王国の領土を最も拡大し、最も魔族を切り伏せたものに与えられる称号です。」
「そうか、よく分かった。今日は有意義な時間だった。またお目にかかろう。岸君もご苦労だった。引き続き彼らのサポートを頼む。」
安藤にサポートという名の監視を依頼し、映像は切れた。
もはや、選択肢は一つしかない様である。
「どうだね、佐竹外務大臣、早瀬君。彼らは『外国』の戦力として考えられるかね。」
「通常は難しいですね。地球上に存在している国名でも、それを証明するものすらありませんから、しかし今回はどうにか解釈を加えて、『外国』からの軍事力が我が国に侵入し、侵略しようとしているとするしかないでしょう。内閣法制局長と打ち合わせを行います。」
「頼んだ早瀬君。」
「古谷幕僚長はどうだ。」
「只今、法解釈の問題がクリア出来ればすぐに防衛出動を行えるよう準備を整えております。」
「佐竹外務大臣と押谷防衛大臣は、ホワイトハウスに映像分析と先程の報告内容、会談内容から安保条約の適応範囲内との解釈が取れるよう交渉を急いでくれ。
皆聞こえていたと思うが、相手は明確に日本国に対して宣戦布告した。残念ながら平和的解決の道は閉ざされてしまった。各自、その日の為の準備を進めてくれ。」
スタッフ全員から返事が返ってくるのを聞いて、岸は頷いた後、スーツを整え髪を撫でつけた。
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