第9話報告

総理官邸危機管理センター


勇者一行を福岡郊外にあるホテルに移した安藤からの報告を受ける。

音声はリアルタイムで届いてはいたものの、勇者達の言葉は官邸にはそのまま届いていたため、半分も理解できていなかった。


報告を受けた面々の顔色は、もはや青色を通り越して土色になりかけている。

まずい。かなりまずい。

恐らく女魔法使いは、もはや日本が保持している兵器では比べようがないレベルだ、古谷幕僚長からの報告でも、先刻の魔法は米国が保持するデイジーカッターと同程度かそれ以上との事だった。

考えたくもない事だが、その三倍の出力を出せるのならば、それはもはや歩く核兵器だ。探知できない分、尚たちが悪い。

しかも、必要が有れば人を殺すことに躊躇は無いようだ。

更に、勇者を名乗る男はそれよりも巨大な力があるというではないか。


人の命の価値が軽く、一方的な侵略戦争を行い、奴隷もいる世界から来た、近代兵器を凌ぐ集団。


最悪だ、一体どう対処したらよいのかと岸は頭を抱える。

唯一の救いは今のところ、この世界に宣戦布告を行っていないことくらいだ。


しかも、安藤の話では、魔族の王もこちらの世界に来ている可能性があるというではないか。

ただ、こちらは不確定要素が多い上、むしろ話し合いが出来そうではあったが。


現在のところ方針は二択だ。

一つは元の世界に帰るまで、もしくは帰れなくても衣食住を保証し、手厚く持て成すことで大人しくしていてもらう。

二つ目は5名の殺害である。

一つ目も十分に超法規的ではあるが、これ以外の方法が出てこないのが現状だ。他国に引き渡せるものでもない。

既に内閣法制局には、5名が再び厄災を巻き散らかした場合、自衛隊の防衛出動が可能かを確認させている。

正直、時限立法で、彼ら5名を殺害するための法案を通すのは至難の業だ。それに時間がかかりすぎる。

現在、最悪の事態に備えて自衛隊にシミレーションを行わせてはいるが、中々回答が返ってこない。

当然だ、非核兵器では最高クラスの殺傷能力を超える力を行使する者に、仮に対艦ミサイルハープーンや93式空対艦誘導弾を直撃させられたとして、それで終われるものなのか。

それに、修道服の女も厄介だった。死んでも生き返らせることができるという。ならば、ピンポイントで修道服の女を真っ先に殺害するか、跡形も残らないくらいに死体を損傷させなければならないということだ。

恐らく、自衛隊の装備では殺傷は困難だろうという考えが、政府内で大勢を占めている。

岸も同意見だった。取り敢えず試してみて、なんてことはあり得ない。やるならば確実でなければならないのだ。


ディルとの会談は二時間後、彼らが食事を取ってから映像会議の方式で行う事になっている。

かなり時間を稼いでくれた安藤には感謝をしなければならない。岸はそう思いながら、再び内閣法制局長の後藤、古谷幕僚長、押谷防衛大臣との会議に入った。

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