第11話作戦会議(魔王)

東京都内ホテルの一室

そこに、ツインの客室の片方のベットに腰かけ、頭を抱える魔王の姿が有った。

「やってしまった……」


10分前 ホテルの前

「魔王様、緊急事態です。やむを得ません。」

「シェイラよ、緊急事態だからと言って、何でもしてよい分けではないのだぞ。」

「では、どうするのですか、やはりファストフード店で…」

ずいっと、クライドルに顔を近づけるシェイラ。

「分かった、それ以上言わんでいい。入るぞ。」

シェイラの立てた作戦、それは魔術による洗脳である。

文無しのクライドル達が、直ぐに宿をとる方法はこれしかなかった。

「やってやる、やってやるぞ!」

「流石、魔王様です。」

「シェイラよ、汝は楽しんでいまいか?」

肩を落としながらクライドルはホテルに入っていった。

しかし、これは魔王領では重犯罪である。

洗脳などは、相当な力の差がなければかからない魔法で、簡単に抵抗されてしまう事が多い

これは、圧倒的な魔力を持つ者が、弱者を意のままに操る為に使う魔法なのである。

そのため、魔王領では奴隷を所持する事よりも、洗脳魔法の行使は重い犯罪として取り扱われるのである。


ホテルのフロントの前にたったクライドル達、ロビーに入った瞬間から開始していた洗脳魔法の詠唱を終えて、魔法を発動させる。

「二名でお越しのクライドル様ですね。決済も確認しておりますので、こちらがお部屋の鍵になります。

ご不明な点がございましたら、お申し付けください」

クライドルは引きつった笑顔で鍵を受け取り、部屋に向かった。


相変わらずベットに腰かけ頭を抱えるクライドル。

「祖国の重犯罪者、そしてこの国の小悪党になってしまった……」

「宜しいではありませんか、魔王らしくなってきたという事です。

それに、すでに眷属達がビル街を蹂躙したではないですか。この国でも立派な重犯罪者ですよ。」

「うるさい、うるさい!それはこの国の魔王像だろうが!

それに、眷属たちは魔王領を守る為の者であって、他国の民を苦しめるためにいるわけではない。」

更に頭を抱えるクライドル。

生まれて間もなく、先代魔王である父から帝王学を学び。

民草の為に働く事こそが魔王であると。

そして、偉大な統治者は、種族間などの小さな違いで差別をせず、全ての国民に慈悲深く有れ。

その様に教育された自分が、今では犯罪者である。

「もし祖国に帰れたら、次代に魔王の座を譲ろう。」

もうすでに、引退まで覚悟をしていた。

そんな、クライドルの前にシェイラは急に跪いて、優しく首に手をまわした。

上目づかいで、クライドルの目を見つめるシェイラ

「魔王様。」

シェイラの息遣いを感じる。

まずい、駄目だ。落ち込んでいるからといって、こんな時に勢いで部下に劣情をぶつけるなど、魔王として、上司として有ってはならない事だ。そう思い。

「まて、シェイラよ、それはダメだ。私には妻子がいる。お前は大事な部下だ。」

しかしシェイラは止まらない。

シェイラはクライドルの耳元まで口元を近づけた。

「魔王様。犯罪も、ばれなければ、やっていないのと同じです。」

クライドルは崩れ落ちた。

「祖国に帰れたら、必ずお前のこの国の記憶を、きれいに残さず消してやるからな。」

「あらあら魔王様、それは立派な犯罪ですよ。」


クライドルが立ち上がるまでには数十分の時間を要したという。

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