第3話 潜む闇と浮かびあがる疑問

 ロエルと別れた次の日。

 この想区の正体を知った一行は、カオステラーを探しつつも、街の人たちとの関わりや買い物など思い思いに楽しんでいた。


「この想区は最高ですね。とっても楽しいです!」


 シェインはカップを手に、噴水の近くにいたおばあちゃんと談笑している。


「おいおい、これからロエルのところ行くんじゃねーのかよ」


「あとで行くと伝えておいてください」


 普段ならタオの意思を優先するシェインだが、今回はそうはいかないらしい。


「珍しいわね」


「ま、たまにはこういうのあっていいんじゃねーの」


 シェインを広場に残し、エクスたちはロエルのもとへと向かった。


* * *


「ロエル、いるー?」


 エクスがロエルの家の前まで来たところで、彼を呼ぶ。

 すると、家の扉が開いた。


「エクスお兄ちゃんたち、いらっしゃい!」


「約束通り来たぞ」


「うん! 来てくれてありがとう!」


 ロエルは笑顔でエクスたちを出迎えてくれた。


「あれ? シェインお姉ちゃんは?」


 エクスとタオとレイナの3人しかいないことに気がついたロエルは、シェインの姿を探す。


「シェインは後で来るってさ」


「シェインお姉ちゃん、何かあったの?」


「えーとだな、ほらあれだ。大人の事情ってやつだ」


 タオが笑いながら変にごまかす。


「大人の事情? 何それ?」


「タオ、ここは正直に話したほうがいいと思うけど」


「僕もそう思う。別に隠すことなんて何もないよ」


「なあーに? 気になるな~」


 ロエルがニコニコしながらタオに説明するように圧をかけてくる。

 タオはそれを感じ取ったのか、しぶしぶ話す。


「シェインはな……広場にいる婆さんと談笑中だ」


「そっか!」


 シェインが何をしているのかわかったところで、ロエルは満足したのか変な圧が消えた。

 タオはロエルが満足した様子にホッと胸を撫で下ろす。


「タオが子供に怯えてるなんて珍しいわね……」


「ほんとだね……」


 レイナとエクスは2人の様子を見ながら困ったような顔をして笑う。


「タオお兄ちゃんが白状したところで、今日はお願いがあるんだ」


「お願い?」


 レイナが首をかしげる。


「特訓に付き合ってほしいんだ。ボク、もっと大剣をうまく扱えるようになりたくて……」


「それなら坊主のほうがいいんじゃねーの?」


「えっ、僕!?」


「確かに適任ね」


 レイナはエクスが背負っている木刀を見ながら賛成する。


「でも、僕そんなに詳しくないよ……」


「と言われてもな~……俺はディフェンダーがメインだし槍かハンマーものしか教えてあげらんねー」


「私もヒーラーメインだから無理ね……」


「レイナはアタッカーもできるはずだよね?」


「そう言われても……よっぽどのことがない限りアタッカーにはならないわね……?」


「じゃあ、シェインに頼もう! シューターであってアタッカーだし!」


「シェインはこの場にいねーぞ」


「呼びに行けばいいよ!」


「ロエル、今特訓したいよな?」


「うん! 今したい!」


 タオの質問に、ロエルは元気よく答える。


「というわけだ、坊主。……頑張れ」


 タオはエクスの肩を叩き、励ます。


「そんな……」


「俺たちは外で見てっから、な?」


「うぅ……」


「エクスお兄ちゃん、よろしくね!」


 ロエルは期待に満ちたような笑みを浮かべてエクスを見る。


「うん……」


「早速だけどね、昨日のヴィランとの戦いでボクの欠点とかなかった?」


「えっ……」


 そう言われてもエクスは目の前のヴィランに集中していたため、ロエルの剣術を1つも見ていない。


「そ、そうだな~」


 昨日のロエルの戦いで何か思い出せないかと思い、必死に頭の中の引き出しを開ける。

 すると、ロエルが戦いの途中で疲労が見えていたことを思い出した。


「ヴィランとの戦いのときに途中で疲れてたから、体力が大事なんじゃないかな!」


 苦し紛れの回答に、ロエルがどう反応するのか様子を見る。

 ロエルは顎に手をあて、何かを考えていた。

 その様子にエクスは自分が今見定められているのではないかという感覚に陥りそうになる。


「そうだよね。やっぱり体力か~! さすがエクスお兄ちゃんだね!」


「あはは……」


 ごまかすように笑いながらも、エクスは安堵した。


「あと筋トレが必要かも」


「どうして?」


「この剣重いんだ。だから筋トレしないとね!」


 エクスは剣を変えた方がいいのではないかと思った。

 だが、ロエルにとってこの剣は父親の大事な形見である。

 エクスはその考えを胸の内にしまった。


「そうだね。じゃあ、筋トレもしよう」


「うん!」 


「おい!」


 タオの声に、ロエルとエクスは振り返る。


「体力をつけるのもいいが、実戦も大事だと思うぜ」


 タオが指さす方向には数匹だが、ヴィランの姿があった。

 ヴィランはこちらに気づいたのか、ロエルとエクスのほうへと向かってくる。


「行きましょう!」


 レイナが空白の書と導きの栞を手に取り、2人のもとへ向かおうとするが、タオの腕が行く手を阻む。


「待て。ここは2人に任せよう」


「どうして……!」


「これも特訓だ。なるべく手を貸さないほうがいい。……本当にやばくなったら手を貸せばいいだけの話だ」


 レイナはタオの言葉に少し不満を持ちながらも、その場に座り直す。

 一方、ロエルとエクスは2人の気持ちなど知らず勇敢にヴィランに挑もうとしていた。


「エクスお兄ちゃん!」


「ロエル、行こう!」


 2人はヴィランがいるほうへと駆け出す。

 その際、エクスは空白の書に導きの栞をはさみ、ジャックとコネクトする。

 ヴィランは爪を構えて戦闘態勢を取った。

 まず、先手を切ったのはロエルだ。

 ロエルは大剣をヴィランの頭めがけて、一太刀入れる。

 それは見事に当たり、ヴィランは消えた。

 エクスも負けじと片手剣を振り、ヴィランを消滅させる。

 お互いの息はぴったりで、ヴィランはものの数分でいなくなった。


「はぁ……はぁ……これで終わり?」


 ロエルは肩で息しながら、周りを確認する。


「みたいだね……」


 エクスはコネクトを解くと、その場にしゃがみこんだ。


「お疲れさん」


 タオがボトル2つを持ってエクスたちの前にやってくる。


「これ、水」


「ありがとう」


 エクスはボトルを受け取ると、即座に水を飲んだ。

 ロエルもタオからボトルを受け取り、一口水を飲む。


「それにしてもこの辺、ヴィラン多くねーか?」


「確かに。ロエル、僕たちが来る前からこんな感じだったの?」


「ううん。つい最近だよ。街のほうでは見かけないらしいんだけど……この辺に住んでる人あんまりいないし、ヴィランが出やすいのかも」


「気をつけろよ。1人のときに襲われたら対処するのに限界がある」


「うん。心配してくれてありがとう」


 その後、休憩をはさみながら走り込みをしたり、筋トレや剣を使っての素振りをした。

 日が暮れたところで、エクスたちはロエルと別れた。


「結局、シェインは来なかったな」


「そうね。こんな時間まで談笑しているとは思えないし……」


「何かあったのかな……?」


「好き勝手に言ってくれてますね」


「うわっ! シェイン!」


「驚きすぎです」


 シェインはエクスの背後にいた。


「どこ行ってたんだ!」


 シェインを見るなりタオは声を荒げる。


「すみません、武器のお店の店長さんと遭遇してまして。武器と素材のカスタマイズについて語ってきました」


「この想区を存分に楽しんでるみたいね……」


「はい、それはもう」


 ニコニコと笑うシェインに、レイナは呆れ顔だ。


「ロエルがシェイン来ないから心配してたよ」


「それは申し訳ないことをしました。明日は必ず行きます」


「そうしてあげて。ロエルもきっと喜ぶから」


「もちろんです」


 宿に辿り着いた一行は、夕食を取り就寝する。

 明日もロエルのところへ行く。誰もがそう思っていた。


* * *


 皆が寝静まっているころ、事件は起きた。

 外が異様に騒がしく、エクスは目が覚めた。

 窓の外を見ると、まだ真っ暗だがランプを持った人たちが続々と出てきてどこかへ向かっていく。

 そのとき、部屋の明かりがついた。


「騒がしいわね」


 明かりをつけたのはレイナだった。

 タオとシェインも目覚めており、違う窓から外を眺めている。


「何が起こってる?」


「わからない。ただ、街の人たちが一斉に外に出るなんて何かあるに違いないわ」


「僕たちも外に出てみよう」


 エクスたちは外に出る。すると、宿の管理人さんが一行を引き留めた。


「出てはだめです。今怪物が現れて皆で退治しようと向かってます。旅の方、行きたいのはわかりますが、我慢してください」


「怪物? どんな怪物なの?」


「熊だと聞いていますが、かなり変わった熊だと。口に剣を銜えていると聞きました」


「剣を銜えた熊だと? 怪物という表現にはほど遠いんじゃねーか」


「そ、そうですが……」


「とにかく、その熊のところに向かいましょう」


「あぁ! 俺たちにも何かできることはあるかもしんねぇ」


 レイナたちは街の人たちのあとをついていく。

 その流れに乗る際、宿の管理人がここに留まるように懇願したが、一行はそれを受け入れなかった。

 街の人たちの流れに乗っていると、広い草原のようなところに出た。

 周りには建物などが一切なく、遠くに見えるのは木だけ。

 その風景にエクスはロエルのことを思い出した。


「ロエル、大丈夫かな……?」


「そう言われると心配になってきたわね、ロエルのところへ向かいましょう」


 一行は、ロエルの家へと進路変更する。

 ランプを持っていなかったエクスたちは街灯を頼りに、ロエルの家へと向かった。


* * *


「ロエル、いるー?」


 家に到着するなり、ロエルを呼ぶが返事がない。


「寝てるんですかね?」


「そうだといいが、ロエルのことだ。熊退治に参加しているかもしんねーぞ」


 エクスは家の扉を開けて中に入るが、ロエルの姿はない。

 玄関に戻ると、立てかけてある大剣が見当たらなかった。


「どうだった、坊主?」


「だめだ、いない。もしかしたら熊退治に行ってるのかも」


「急ぎましょう!」


 レイナたちはロエルの家を後にし、先ほどの場所に向かおうとしたその時だった。


「クオオオオオオン!」


 やや甲高い声がし、エクスたちは立ち止まる。


「この声って……熊?」


「熊にしてはやけに声高くねーか?」


「来ます!」


 雑談などの余裕はなく、木がメキメキと音を立てながら折れる。

 そして目の前に現れたのはエクスたちの身長をゆうに超える熊だった。

 前足はとても太く、爪も普通の熊より長く鋭利である。

 それは後ろ足も同様であった。


「こいつは……」


「メガ・ヴィラン!」


「だったら早くコネクトしましょう」


 一行はそれぞれヒーローとコネクトする。

 ヒーローとコネクトしたところで、エクスに宿っているジャックが何かに気付いた。


—―エクス、あれ!


 熊の口元には、剣が銜えられている。それはロエルのものだとわかった。


「ロエルの大剣だ! ロエルは熊に……」


「いや、その可能性はねーな。おそらく……」


 タオが熊を見ながら言いにくそうな表情で、答える。


「あの熊がロエルだ」


「そんな! どうしてメガ・ヴィランなんかに……」


「わからないわ。でもとにかく倒さないと!」


 3人はメガ・ヴィランを目の前にして向かっていく。

 だが、その場から動かない少女が1人。それはシェインだ。

 シェインは大熊を目の前に何かを考え込むように立ち尽くしている。


「シェイン! 何ボーっとしてんだ! 行くぞ」


「すみません」


 タオの呼ぶ声にシェインも大熊に向かっていく。

 メガ・ヴィランはエクスたちを警戒してなのか吠えながら爪を振りかざした。

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