Phase04-02「テスト」

「…お前にATのテストを受けてもらう。もちろんMRTは知ってるな?」

「ええ、父が作った機械ですよね」


 MRT、マシーン・ライド・テスターは乾庄次郎がソフトをマイク・ギアがハード開発を行った軍用テストシミュレーターだ。ATだけでなく、戦艦の操舵や戦闘飛行機などのテストも可能なタイプもある。それぞれのシステムは全て庄次郎が組み込んだものだ。AT用のテスト機が乾家の地下室にあった。


「テスト機が家にあったんで何度か触りました。おかげでATの操作はある程度できたんですけど。そこまで上手くないですよ?」

「問題ない。あの機体で外に出る度胸さえあればな。アリトリアの隔壁ぶち破ってきたらいいじゃねぇか」

「いや、でも乗るとは言ってないんですけ…」

「そもそも俺は乗る気じゃなかったんだ、いやー、代役候補が出てきてよかった」


 健太郎の意思を無視した形で話は進む。

 そして健太郎たちは、大きなカプセルのような機械の前にやってきた。


「中はランスのコックピットを再現してある。パーツは寄せ集めだけどな」


 乗り込むとランスのコックピットと同じ景色がある。シートなど違うところはあるがほぼ一緒と言っていいだろう。

 乗り込むと全く同じアナウンスが流れるケージをセットするとシステムが立ち上がった。三面になった

画面には仮想空間が映し出される。


―『あー、聞こえるな?今から複数の戦闘を想定した映像が流れる。やったことあるなら大体わかるな?』


 無線と同じように外からの声が届く。


「はい、ある程度は」

―「普段通りゲーム感覚で構わん。お前の家にあったのとは違って、被弾時の衝撃や熱まで再現してあるからな。そこだけ注意しろ」


 おそらく登場する兵士がゲーム感覚にならないようにしてあるのだろう。庄次郎のやりそうな事だと思いつつもテスト開始のカウントダウンが始まった。


「アリア、大丈夫?」

『えぇ。何分戦闘補佐はほとんどやってないですから不安ですが、やれない事はありません。』


 残り三十秒でテストが始まる。ランスに乗れるかどうかはどうでもいいが、健太郎はこの手のゲームで手を抜くことが嫌いだ。本気でかかる。



―『よし、テスト開始だ』


 その声を合図に戦闘シミュレーションは始まった。

 戦闘フィールドは古びた街だ。崩壊寸前のビルが多く見受けられる。敵方味方共に遮蔽物が多い。隠れやすいが見つけにくいといったところだろう。

 装備を確認した限り、搭乗機体はランス。これまで乗っていたときとの違いは腕にカノンとソードを兼ね合わせたマルチシステムが装備されている。飛行は想定されていないらしく、ユニットは搭載されていない。


『肉弾戦ということでしょうね』

「…かな」


 プラズマフィールドとレーザー武器を使用した対AT戦闘といったところだろう。


―『敵機接近、十時の方向から六機です!』


 録音データであろうアナウンスが流れる。このあたりはライブではないようだ。左側を見るとカンデンの部隊が見える。六対一とは辛いものがあるがランスであればできないことはない。

 先頭の機体が近づいてくる。頭が悪いことこの上ない。自分なら先んじて突っ込むなんてことしないしさせない。


『今回も姿勢制御をメインに行います。ですがあまり無理な動きはやめてくださいね』

「りょう、かい!」


 近づいてきたカンデンを避けると手に展開したパルスフィールドの拳をぶつける。硬さのおかげで一機目の貫通させることができた。そのまま引いて後続を迎え撃つ。


『前方から二機接近。あれ?他の機体が見当たらな』


 後ろから衝撃、機体ダメージではなくアリアの機転でフィールドを展開して防いだ。どうやら一機目は囮だったらしい。


「大丈夫これで」


 カノン砲で後ろの三機を撃つ。一機は脚部を破壊することができた。テスト内容は撃墜ではなく行動不能だったのでこれで十分だろう。残りを落とすため接近する。手持ちのマシンガンを撃ってくるが恐ろしいことにフィールドで全部跳ね返せてしまう。実際の戦闘ではここまでうまくいかないかもしれないがシミュレータならここまでうまく跳弾できてしまう。


「恐ろしいなこりゃ」


 そう呟きながらカノンをソードモードに切り替える。例によって足を切り落とすと、残りの一機の姿が見えなくなる。狙撃を警戒しながらも探索に入る。こういう場所ではATの脚部に搭載されているローラーが有用となる。ランスの浮力と併用することでそこそこのビルは登れる。


「どうだ?」


 遮蔽物が無い場所ならある程度熱で敵を感知することができる。試験プレイの時もそうだった。


『えー、意外と頭使ってますね。あ、熱源を一つ発見しました。二時の方角です、距離は三百。他は移動しつつといったところでしょうか正確に補足できません。』


 二時の方角。ビルが三つほど超えた先だろうか。この距離なら飛び越えていけないこともない。


「あの時みたいなホバー移動はできるんだよな?」

『えぇ、問題ありません。シミュレータなのであの時ほど苦労はないかと。跳弾もかなりうまくいきましたし』


 その声を聞くと変形し、飛行形態へシフトする。そのまま前方へと舵を切る。


「他はばらけてるってことでいいのか?」

『いえ、カンデンの放熱量が多いせいで固まられたら判別が難しいので実際は目視しないと…』


 こう遮蔽物が多ければレーダーは使えない。熱源を追うのにも遠くからでは難しい。シミュレーションにしてはなかなか卑しいステージである。


「…到着すれば分かるだろう。」


アリアが熱源を発見した場所に到着するとビル陰に二機が潜んでいた。装備を見るに電子型と空戦型が待ち構えていた。


『あー、上からの奇襲は難しそうですね』


 そんな間抜けな事したら空戦型に落とされるのがオチだ。ここはもう少し移動しておくのがベターだろう。若干後退して、残りの一機も警戒しつつ二機に近づく。ATモードの変形してチャンスを伺う。


「おらっ」


 まずは電子型、廃部に搭載してるバックパックを壊してしまえばこいつの本体を潰したも当然だ。同時に脚部とチャフを切り離しておく。奇襲と同時に離れていた空戦型にカノンを撃って牽制しつつ近づく。ちょこまかと動かれるのが非常に面倒だ。


「速さでゴリ押す。アリアはもう一機の捜索をよろしく」

『了解です。なるべく派手にお願いしますよ。もしかしたら向こうから来るかもしれないですし』


 少し考える。空戦型はウィングパックの方にATとは別に燃料タンクが設けられている。そこを破壊すればショートした電気回路で引火して爆破できるだろう。

 決まれば即行動だ。飛行モードほどではないがランスの速度は他のATの追随を許さない。ざっと三倍といったところであろうか。それはカンデン相手にも通用する。ビームカノンで目くらましをしている間に接近し背後に回る。


「おーりゃっ」


 バックパックの燃料タンクをソードで切り裂く。思いの他上手くいって健太郎自身驚く。敵もそれを察してそこから動こうとするがその前に漏れた燃料に断線したケーブルから引火して爆発する。赤く燃える炎と黒い煙があたりにこみ上げる。


『どうやら上手くいったようです。最後の一機がこちらへ近づいて来ます。目の前です』



―『おいおいおいおいいいいいいいいいいいいいいいいいはああああああああああああああっ!』


 あまりの大声に、一瞬体が硬直してしまう。おそらく敵機からの無線だろう。姿を見るべく、周囲を伺う。


―『あーあ、完全にモード入っちゃってるよこいつ。あー、どうもラスボスですー』


 男の声と女性のシステムボイス。そして煙の向こうに青く見える機体。ブレイドだった。


『ま、まさか新型の戦闘訓練なんて…』


 最初のシステムボイス自体がダミーだったようだ。敵はカンデンだけじゃなかったらしい。


「ジャック、さん?」


 それにしてもジャックの様子がおかしい。初対面の時はこんな印象を受けなかった。


―『あー、あー。聞こえるな。』


「はい」


―『これはジャックの発作みたいなもんだ。あまり気にしないでやってくれ。病気とかじゃないんだけど戦闘になるとこうなっちまう。お前のとこに行った時はほとんどリサがやっちまったからこんなことはなかったけどよ』


 レイラからクローズチャットが入る。彼も過去を引きずった結果こうなったのかもしれない。


「はあ。詳しくはわかりませんが同一人物ってことでいいんですよね?」

―『あぁ、それに大破したってこれはシミュレーションだ。怪我は無いし修理もいらない、お互い本気でな』

「分かりました。」


 初対面の印象はイマイチだったが彼女も優しさを持った女性のようだ。ことば使いは少しトゲがあって幼く感じるが他のAI同様パートナーに合わせた進化をしているのだろう。


『タイプブレイドのデータをダウンロードしました。見た目通り超接近型機体です。大型の実剣は驚異になります。プラズマフィールドでも受け流すのがやっとかと思われます。一応向こうもサンクチュアリを装備しているためこちらの攻撃もちゃんと当てないといけません』


 プラズマ防壁投影システム『サンクチュアリ』。ランスに搭載されているプラズマフィールドの下位互換に当たる。実弾なら簡単に弾くことが可能だ。


「わかった。アリアは防御に徹してくれ。」


 そう言うと一気に加速してブレイドに近づく。実を言うと、燃料が残り少ない。あと数回攻撃できるかどうかといったところだろうか。場合によってはあと一回で行動不能になってしまう。


―『ざぁーんねんでしたぁ!』


 最接近したと思うと突然視線が下がる。


『脚部損傷!足が落とされました。』


 近づけたはいいが一瞬で抜刀して足を切られたようだ。相応の衝撃が健太郎を襲う。


「ぐっ」


 落下の衝撃は予想していたよりも大きかった。舌を噛みそうになったがなんとか大丈夫だった。


―『あー?あぁ終わりか。……あ、おつかれさまでした』


 ジャックの声が聞こえるとシミュレータの画面が暗転してシステム画面にもどる。MRTのドアが開き外に出ることができた。

「お疲れ様、乾くん」

 

 冬子や他のクルーが迎える。どうやら外からモニタ―していたようだ。


「いやぁ、すまんな。どうしても客観視する役が必要でジャックにお願いしたんだ。最後の戦闘はおまけだと思ってくれ。」


 マイクが言う。どことなくワザとらしいのはおいておこう。


「はぁ。それでテストはどうだったんですか?」

「…対カンデンにおける市街地戦闘テスト。ランクS、おめでとう。そこらへんの機械乗りと比べたら群

を抜いていい数字よ。試験運転で何度も乗ったらしいから慣れてたのかもしれないけれど」


 リサが淡々と言う。データの収集は彼女がやっていたらしい。


「いやぁ、でも対人戦はまだまだだったね。簡単に倒せちゃったよ」


 他のMRTに乗っていたジャックがこちらにやってきて言う。笑顔の裏にあの性格が秘めていると思うとなんだか怖くなる。


『センスはあると思うぜ。経験がないだけで。ちょっと触ったくらいであの動きはできないよ』


 レイラからも賞賛の声が上がる。毒舌の彼女が言うのなら正直に受け取ろう。


「博士もそれなりの腕には仕込んでいたらしいな。これでお前にATを任せられる。」

「…はあ」

「気負うことはない。博士もお前にこれを託した。その腕もある。第一、ここにいる以上ただの学生じゃいられないぞ?」


 デビッドの目が変わる。実際、将来的には乗れたら良いかもとは思っていたがまさかこんなに早くATのパイロットになってしまうとは思ってもみなかった。


「腕の方は僕が面倒を見るので、数日もあればある程度動けるようにはなるでしょう。」

『あたしらがゴリゴリしごいてやんぜぇ』


 鬼教官が腕を鳴らして待っている。

 こうして、乾健太郎は統制軍リベルタ所属第四番艦「インヴェルノ」のクルーとなった。

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