Phase03-01 「ランス」02

『飛行ユニットはまだ実装されていないようですが、浮遊移動できる程度の推進力は持ち合わせているようです。速さは折り紙つきといったところでしょうか。実地検証はまだとのことだったのでその実はわかりませんが』


 アリアが淡々と語る。ここ最近、庄次郎はATではなく飛行システムを作っていた。それははこの為だっ

たのかと今になって思う。コックピットらしき場所を覗くと従来のユーザーインターフェイスに加え、飛行用の設備が加えられているが概ねは従来のATのそれと変わらない。AT操縦のシミュレーターはテスト機に飽きるほど乗せられた、運転は問題ないだろう。


 だが、従来存在するはずの起動ボタンがこれには存在していなかった。


「どうやって立ち上げるんだこれ」

『ケージをセットしてください。起動にはa.r.aの認証が必要です』


 よく見ると、レーダー画面の脇に縦長のスロットtがある。先ほどの扉のように此処にケージデバイスを差し込むのだろう。


『アーマー・ライド・エンジェルシステムナンバーゼロ「アリア」を認証。AX-00ランスのシステムを機動します。』


 a.r.aと略されるシステム。これはアリアで作った自立学習型AIを製品にする際につけた名前だ。


「それで、ここからどうやって出る?」

『健太郎様から見て正面。そこが開きます。そして二百メートルほど先まで行くと自宅裏山の反対側から出れます。そこからなら東ゲートが一番近いでしょう。先ほどの攻撃でアリトリアの防壁システムが作動しています。避難のためゲートは一番最後ですがランスの装備、プラズマフィールドを用いて他の壁を突破しなければなりません。』 


 高濃度プラズマ防壁投影システム[プラズマフィールド]。これは元々戦艦や重要施設用に作られた機構ではあるが、システムを弄っていくうちに本当に搭載されていることがわかった。

 現在、多くのATに搭載されているプラズマ防壁投影システム[サンクチュアリ]の上位互換として位置づけされており、現代における最強の盾である。兵器武装されていない現段階ではこれを展開した上での突貫しか攻撃方法がない。さらにこれは相当のエネルギーを消費してしまうため安易に多用すると自滅を招きかねない。


――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン!


 さらに轟音が響く。悩んでいる暇はない。生身で外を駆け回るよりはこの鉄の塊の中の方が幾分かマシだ。目立ちはするだろうがこいつの速さなら問題ないだろう。


「ハッチ開いて。ここから出よう。」

『了解しました。ハッチ開放、揺れます』


 ズゴゴゴと音を立てて前の壁が左右に開く。手前から幾つか同じように開いた後に小さく明かりが見えた。とりあえずはあそこまで走り抜ける。一瞬課題のことが頭をよぎったが今は気にしていられない。


「行くぞ」


 オペレーションをアリアに任せ、健太郎はレバーをいっぱいに倒し衝撃をこらえていた。遠くに見えていた明かりはあっという間に大きくなり、ランスは外に放り出された。これほど父親を恨んだことはない。飛べない状態で出た先は山肌のほぼ中央だったのだ。


無論、落ちる。


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