Phase03-01 「ランス」01

『これで今日の分の課題は終了ですね』


 乾家の制御プログラム「アリア」は作業の終了を告げた。ここの長男、健太郎は父親の仕事の都合で通信学校に通っている。週に何日かは父のチームが作ったシステムのテストユーザーとして協力してもいる。ここはラボ・アリトリア、多くの人は大陸の西側にあることから『ウエスト』と呼ぶものもいる。軍関係のシステムやそれに基づく機械がここで開発される。そのための隠語としても『ウエスト』と呼ばれていた過去があることからそのまま呼ぶものが多い。


 健太郎の父、庄次郎はこのアリトリアで新型ATのシステム、「アーマー・ライド・エンジェルシステム」開発をしていた。開発はほぼ終了し、あとはAT開発チームに任せていた。アリアはこれの試作型として開発初期に作られたものだ。多くの建物が電子制御されてる今、発声可能自律型AIによる制御はATに限らず戦艦や軍の建物への流用まで話が持ち上がっている。


 銀行に導入すれば金庫管理や個人情報の最終的な保管、企業秘を保管するにも使える。a.r.aのシステムは独立したコアキューブにインストールされ、スタンドアロンで起動する。コアキューブのアクセスコードは開発者の庄次郎でさえクラッキングしたくないほど複雑に作ってある。そのため外部からのアクセスで突破されることはほぼ無く、直接アクセスしても複数の障壁と難解なコードで侵入者を拒むことが可能となった。



 唯一コアキューブに直接接続可能なAIの携帯用端末KID(ケージ・インタフェース・デバイス)がある。


「…疲れた。こんな学習に意味があるなんて思えないよ」

『教養の為です。知らないで困ることはありますが知っていて損することはありません』

「インストールするだけで暗記できるAIに言われてもなぁ」


 健太郎が嫌味を込めて言う。だが相手は学習機能があるAI、そんな言葉にはひれ伏さない。


「今日もラボで作業だっけ?」

『えぇ。……庄次郎様から入電です』


 携帯電話を取り出すと父親から電話が掛かってきていた。仕事中に電話を掛けることはほとんど無い為不思議に思いながらも通話ボタンを押す。



――ドゴオオオオオオオオオオオオオオオン



 外から轟音が響く。アリトリアは隔壁に囲まれた街だ。それが壊されたのかも知れない、それはすなわち敵襲をいみする。


『ケン!聞こえるか?』

「聞こえてる!何、今の音?」


 ハッとして電話を耳にやる。父の声は焦っているように聞こえる。


『アリトリアの隔壁が破られた。既に敵兵は侵入している。私たちは避難の準備を終えたところだ。お前は地下にあるATに乗って逃げろ』


 それだけ言うと電話は切れてしまった。折り返し掛けようとしても繋がらない。電源を切ったようだ。街を離れるということは電源の確保が難しくなるということ、バッテリーの消費は抑えたいということだろう。


「どういうこっちゃねん」


 この家の地下には父が趣味で作った工作がいくつも置いてある。見る人が見れば垂涎の品なのだろうが、健太郎からしたら遊び尽くしたおもちゃ箱といったところだろうか。多くの品は今製品化され、乾家の収入源として役立っている。もちろんガラクタも多い。


『…データを受信しました。向かいましょう』


 何のデータだ。と聞こうとも思ったが、いつ敵のATがこの家周辺を爆破するかもわからない。地下室は


「宝の山だ」と庄次郎がシェルター構造にしたためここよりは安全だろう。

「…っと」


 久々に地下室のドアを開ける。埃っぽい、宝箱どころかただの物置と化している。


『扉を開けます。』

「扉?」

『はい、この部屋ともう一つ。乾家の地下には部屋があります。』


 知らなかった。機械馬鹿の父親だ、やりかねないが隠し部屋なんて古典的な仕掛けを作っているとはちょっと意外だ。

 ケージデバイスをかざすと、壁の一部が窪み長方形の穴が現れた。


『KIDを挿入してください』


 言われるがままデバイスを穴に入れる。すると壁がスライドし、奥に広い部屋が現れた。ケージデバイスを抜き取ると健太郎は部屋へと足を踏み入れる。部屋の中央には飛行機のような機械が置かれている。健太郎の知るATの姿はそこになかった。


「これが、ATなのか?」

『はい、先ほど受信したデータファイルにある[AX-00]ランスでしょう』

「……ランス」


 変形飛行機構を用いた新型の開発が進んでいるというリーク情報はどこかで見たことがあったがまさかそれが自分の家の地下にあるなんて思いもしなかった。

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