Phase01-01「剣と大樽」
「機体ナンバーAX-01シリーズタイプ『ブレイド』の試験運転を開始します。獅堂さん、発艦をお願いします」
その声を号令に青いATが大きな戦艦から飛び立つ。戦争開始から十数年が経った今でもATに飛行機はいない。未だ多くの壁を突破できていないのだ。青い機体、名を『ブレイド』という。統制軍の新型機だ。背中には量産機にはない大きな剣は装備されている。強固な外装を持つ相手との戦闘を想定した超接近型の機体である。
ここは大陸中央の砂漠、砂漠化により前世紀に比べ大分広くなり砂の海とも呼ばれているほどだ。そしてこの新型、外装が新しいだけではなく中身にも新しい機構を組み込んでいる。
アーマーライドエンジェルシステムは乾庄次郎博士の開発したシステムで、ATへの流用に際して姿勢制御、敵からの攻撃のアラート、残弾量や燃料の残量などを全て声で伝えるものだ。さらに特化型の機体においては狙撃用の弾道演算やの回避時の姿勢制御など、多くの行動支援が可能となった。従来は携帯端末などに搭載される予定のシステムであると博士は語っていた。
「続いてAX-02、タイプバレルの試験運転を開始します。クラインさん、発艦してください」
少し遅れて飛び出してきた機体。カーキグリーンに塗られた無骨な上体に腕部はキャタピラを搭載したタンク型を装備している。両手、両肩に実弾兵器を装備、背中にはエネルギーライフルを背負った遠距離戦用機体である。
ブレイドには姿勢脚部安定型のシステム『レイラ』がバレルには距離演算と換装腕部の姿勢安定などを行うシステム『ミラ』が対応されている。ボイスが共に女性なのは開発者の趣味であるとのこと。
今回は走行訓練である。といってもほぼテストは終了しており、発艦、着艦の訓練が主である。指定されたルートを走って着艦するというものだ。両機の走行性能だと一時間もかからずに終了する。
一時間後、着艦のテストも終了した。新型戦艦による新型ATのテストは既に三ヶ月目に入っておりそろそろ実戦投入も視野に入ってきた。
ATの格納庫が見渡せる指令室に男が二人いた。
「おつかれさん」
眼帯をした男がつなぎを着た男に話しかける。
「大した作業じゃないさ。メンテナンスと言っても各部の点検だけだ。前線でほぼほぼ大破した機体を修理するのに比べりゃな」
「ははは、面目ない。」
「気にするな。それが俺らの仕事なんだ」
眼帯の男が申し訳なさそうに言うとつなぎの男がそう言う。この二人は前線でも隊を同じくしたことがあるらしい。眼帯の男は制服を見る限り左官クラス。装いから察するに戦闘による負傷で現場を離れたといったところだろうか。それでもこうして戦艦による勤務を続けているということは彼が現場主義であることの表れだろう。
「それで、アレの所在は未だ分かっていないのか?」
つなぎの男が口を開く。
「ええ、今のところは何も。乾博士ともここ数日全く連絡がつかないですし、ウエストが落ちたという情報も噂だけで未だ確認されていません。」
「早く見つけなければ。あれは……」
『インヴェルノ乗組員へ緊急連絡。付近にて戦闘反応。反応機体は十一。カンデン十機に登録不明機が一機です。繰り返す…』
つなぎの男のセリフをかき消すようにアナウンスが流れる。それと同時に艦全体が騒がしくなる。それよりも二人には気になることがあった。
「不明機か」
「もしかするかもな」
顔を見合わせながらそういう。
「全く、バカの考えはわからんよ」
そう言ってつなぎの男は部屋から出て言った。格納庫を見下ろしていると、男が我が子ほどの年の作業員にあれこれ指示を出しているのが見える。頼りがいのあるメカニックだ。と眼帯の男は心の中でつぶやいた。
「さて、俺もデッキに戻らないとな。またお嬢さんがうるさそうだ」
そして、眼帯の男も部屋から出て言った。
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