第20話『王族の責務』

「さあ、行くよ!」

 ミシェルは音を立てる事無くギルバートの目の前から消えた。

 突然、姿が消えた事にギルバートは戸惑い、どこに行ったのか辺りを見渡す。

「ここだよ」

 背後から聞こえてきたミシェルの声に、ギルバートが振り返った時には彼女に人差し指を向けられていた。

「ホーリー・バレット」

 目にも留まらぬ速さの光の弾丸がギルバートの胸元を三発撃ち当て、その予想を上回る強大な威力に、彼は盛大に後方へと吹っ飛び、そのまま背中から壁に激突した。

「クッ!?」

 強い衝撃を堪えながらギルバートはすぐにミシェルから距離を取り一際大きい雷の槍を精製して彼女に放った。

「ホーリー・シールド」

 光の盾を展開して防いでいる間にギルバートは一気にミシェルと距離を詰め得意の電気を纏った拳や蹴りを放つが、全て読み取られ軽くかわされる。

力に目覚めたミシェルを見て、「す、凄い……」と口数の少ないジミーが驚愕を顔に浮かべながら身体を震わせていた。

「あれが、覚醒したミシェル……」

 もし今のミシェルとレオンが同調したと思うと、ベネットは背中に悪寒を走らせた。

 一方、攻撃を続けているギルバートは体力が尽きたのか、その場で動きを止めてしまった。

 それをベネットたちと見ていたギルバートの双子の弟のアルバートは大きく変貌を遂げたミシェルに恐怖を感じ、ただただ固唾を呑み込んでいた。

 そんな彼らの心情を知らないミシェルは「そろそろ終わりにしよう」と言って静かに人差し指をギルバートに向けた。

「ホーリー・バレット」

 その瞬間、彼女の指先からは光で精製された無数の弾丸が大雨の様に容赦なくギルバートに放たれる。

 暫くしてミシェルが攻撃を止めると、そこには煙を上げてうつ伏せになって倒れているギルバートがいた。

「兄さん!」

 再起不能となったギルバートの下へアルバートが駆け寄る。

 やり過ぎた……、とミシェルは冷や汗を掻きながらギルバートの下へと駆けて行ったのだった。



 あれから医務室へと移り、皆は未だにベッドで眠っているギルバートを囲むように見守っていた。

 暫くすると、ギルバートが唸り声を上げながらゆっくりと目を覚ました。

「ここは?」と上半身をゆっくり起こしながら聴いてくるギルバートに、「城にある医務室だよ」とミシェルが応えた。

「そうか、俺はミシェルに敗けたんだな」

 敗北したと言うのに、どこかスッキリした様な笑みを浮かべる彼に、皆はあのギルバートが敗けたのに笑っている? どこか頭をぶつけたのだろうか? と思わず失礼な事を考えた。

「ミシェル!」

「は、ヒャイッ!」

 突然声を張り上げて名前を呼ぶものだからミシェルは変な声音で返事をしてしまった。

 それに構わずギルバートは鋭い眼差しを彼女に向けて、

「絶対レオンに勝てよ?」

 と口元を緩めた。

 驚いた。 まさか彼が誰かにエールを送るなんて、ミシェルは思いもしなかった。

 彼女から敗北を喫する事で、彼の中で何かが変わったのだろう。

 ミシェルは下手に言葉を選ばず、ただ口角を上げて小さく首を縦に振った。

「それにしても、ミシェルはどうして力に目覚められたのですか?」

 ベネットの問いに、皆は確かに、と口を揃える。

 そんな皆の疑問に、信長が応えた。

「王族の責務じゃ」

 王族の責務? と皆は首を傾げる。

「王族は民を護る責務がある。 『護りたい』と言う思いが、王族の力を発揮させるのじゃ。 良くも悪くも、そこのギルバート言うなる者が非道に振る舞ったお蔭でミシェルの本来の力を目覚めさせたのじゃ」

 信長の説明に皆はへぇ……、と特に興味を示さなかった。

 対して信長は一つ咳払いをして「兎に角、力は目覚めた。 後はその力を制御出来る様に特訓するぞ」と腕を組んで言った。

「はい! 宜しくお願いします!」とミシェルは返事を返した。

「ギルバート」と声を掛けるミシェル。

「何だ?」

「ありがとう……」

「そう言う事はアイツに勝ってから言うんだな」とギルバートは笑った。

 うん! とミシェルは満面な笑みを浮かべて決意を更に固くしたのであった。

 僕はレオンに勝つ……! そして、彼の相応しいパートナーになるんだ!

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