第19話『稲妻との再戦』

 ベネットとジミーが訓練に加わって一ヶ月が経った。 だが、ミシェルの力が一向に目覚める気配が無い。 このままではパートナーのレオンとは戦えない。 それだけは避けなればならない。

 この日まで、信長はずっとミシェルの様子を観察していた。

 少しずつではあるが、着々と生徒会コンビの同調体の動きについて行けるようになっている。 ただ、それだけ。

 まさかここまで怠けているとは思わなかったぞ、と信長はハァッと深く息を吐きながら額に手を当てて苦い笑みを浮かべるのだった。

「やっていますね」

 信長たちの前に現れるはミシェルのパートナー、レオン・スミスの父、カール・スミスだった。

 彼の事を知らない信長は「誰じゃお主は?」と初対面なのに失礼な口振りで名を聴いた。

「カールさん!?」

 突然の登場にミシェルは訓練の手を止めてカールの下へと駆け寄った。

 ベネットとジミーは同調を解いて、誰だ、あの人? みたいな感じでお互いの顔を見合わせて首を傾げた。

「お初にお目にかかります。 私、このユナイテッド王国の漆黒の民の一人、そして彼女の御パートナーの父親のカール・スミスと申します。 以後お見知り置きを」

 カールが信長に一礼して右手を差し出すと信長は「ワシは小田切信長。 宜しく頼む」とその手を握り返した。

「どうして此処へ?」とミシェルが聴くと、カールは「なに、アレックス国王からミハエル王女がレオンに勝つ為に修業をしていると手紙を寄越してきてね。 私も協力しようと馳せ参じたまでです」と微笑みながらそう答えた。

 カールさん……。 本当、僕は色んな人たちに支えられてばかりだ……。 皆の協力を無駄にしない為にも、僕はレオンに勝つ!

 ミシェルは「ありがとうございます!」と今までにないくらいの満面の笑みを浮かべて俺を告げた。

「私としても、ミハエル王女にはレオンを超えて頂きたい。 ですのでビシバシ指導していきますのでそのつもりで」

 彼の言葉に、ミシェルは「はい! 宜しくお願いします!」と勢いよく頭を下げた。

「では、ミハエル王女。 早速、私が連れてきた相手と戦ってもらいます」

 それってどういう……? とミシェルが聴こうとする前に、カールが「入ってくれたまえ」と言って、訓練場の出入り口の方へと声を掛ける。

 その言葉に従って、二人の少年が入場してきた。

「お前たちは!?」

 入ってきたその二人組を見てベネットが目を大きく見開いて驚愕する。

「よう、お前ら」と訓練場に足を運んできた金髪オールバックの少年はミシェルたちの驚いている姿を見る度、不適な笑みを浮かべた。

「風雷坊!」と小田切夫婦とカールを除いた全員が一斉に声を上げる。

 そう、ミシェルたちの前に現れたのはユナイテッド魔法学園魔闘祭小等部の部準優勝者にして『風雷坊』と言う通り名で有名なアルバート兄弟だった。

「お前、いったい何しに来やがった?」

 親の敵を見る目で睨みつけてくるベネットに対してギルバートは鼻で笑い、「そこのオッサンに楽しいことをさせてやると言われたからついてきたまでだ」と返した。

「カールさん。 何故彼らを連れてきたのですか?」と言うミシェルの問いに「君の力を目覚めさせるに適した相手だと感じたんだ」とカールは答えた。

「俺たちは反対です。 こんな危険な奴に、ミシェルを任せられません」

 ギルバートの協力を断固反対するベネット。 隣にいるジミーも首を縦に振って相槌を打つ。

「まあ、そう言うな。 折角此奴が連れてきたんじゃ。 今日だけでも力を借りようじゃないか」

 風雷坊の事をよく知らない信長は呑気な調子で言うと「ダメです! アルバートは兎も角、ギルバートは質が悪いです。 きっと修行を協力することを利用して蹂躙するに違いない!」とベネットはギルバートを指差し声を張り上げた。

「それで良いではないか」

「なっ!?」

 予想を上回る信長の発言にベネットとジミーは言葉を失った。

「それくらい非道な人間でないと、ミシェルの力は目覚めん。 一度此奴の弛んだ根性を叩き直さねばこれ以上の成長は見込めんじゃろう」

 腕を組んで言い切る信長に、ベネットとジミーは返す言葉が無かった。

「大丈夫だよ。 ベネット、ジミー」

「し、しかしだな……」

「僕は一度、一対一で彼に敗けている。 そのリベンジもいつかしなくてはならないんだ。 寧ろこれは僕にとって都合が良い」

 覚悟を決めているミシェルの言葉に、ベネットとジミーは静かに口角を上げた。

「解った。 危ない感じになったら止めるからな?」とベネットが言うと、ミシェルは何も言わずにただ黙って親指を立てた。

「決まったようじゃの」

 さ、始めようか、と信長は定位置に着いた。 それに続いてミシェルとギルバートは彼を挟むように移動してお互いを見合わせる。

「お前、王族の人間だったんだな」

 ギルバートの問いに、ミシェルは何も答えなかった。 そんな彼女の態度にギルバートは珍しく冷静でいた。

「お主、相棒はどうするのじゃ?」と聴いてくる信長に彼は「必要ない」と応えた。

 そうか、と信長は何かを察したかの様に笑い、右腕を前に出した。

 それと同時にミシェルとギルバートは戦闘態勢に入る。

「始め!」

 信長が右腕を振り上げると同時に、ギルバートが先に動き出した。

「行くぜオイッ! サンダー・アロー!」

 彼は雷の矢を三本精製してミシェルに放った。

「ライト・シールド!」

 ミシェルは光の盾を展開して雷の矢を防ぐ。

 その間に、ギルバートはミシェルとの距離を詰め、得意の電気を纏った体術を繰り出してくる。 対してミシェルは次々と振りかかる攻撃を全て触れない様にかわしていく。

 ミシェル、お前のパートナー、レオンが言っていた通り、お前と母さんを守れなかった俺を重ねていた。 故に俺は情けなく感じてしまって、苛々して、その弱さを隠すようにお前に暴力を振るってしまった。 本当、俺って馬鹿だよな……。 笑ってくれ。 お前には二年間、苦汁の学校生活を送らせてしまったな……。 罪滅ぼしとは言わない。 せめて、この一時の間で良い……! お前の力にさせてくれ!

「どうした!? 防戦一方じゃレオンには勝てねぇぞ!」

 檄を飛ばしながら攻撃を続けるギルバート。

 悔しいけど、ギルバートの言う通りだ。 彼に手こずっている限り、僕はレオンには勝てない……。

 その一瞬の気の緩みが隙を作り、ギルバートは右の回し蹴りを彼女にお見舞いした。

 諸に喰らったミシェルは左方に吹っ飛んで倒れた。

 ほう、あのギルバートと言う男、一人で戦っていると言うのに、そこらの同調体の人間を倒せる程の実力が持っておる……。 これはひょっとすると……。 と信長は純粋にギルバートの強さに関心を覚える。

「ミシェル、お前は何かを失ったことはあるか?」

 突然の彼の問いに、ミシェルは首を傾げる。

 それに構わず、ギルバートは言葉を続けた。

「俺は母さんを失った時、初めて絶望と言う者を味わった。 大切な者を失うと言う事がこれ程悲しくて苦しいものだとは想像もしていなかった。 俺に残っている大切な者。 父さんとアルバート。 俺はもう、二度と失うのは御免だぜ。 だから俺は力を付けた。 二度と失わないように……」

 イメージしろ、とギルバートは酷く落ち着いた様子でミシェルの胸座を掴み、立ち上がらせる。

「大切な者を失う恐怖と絶望を……!」

 刹那、ミシェルは雷に打たれたかのような衝撃を覚えた。

 そうか……。 僕、皆に護られていたんだ……。 ベネット、ジミー、生徒会の皆。 ギルバート、アルバート、カールさんに父さん、母さん。 そして、レオン……。

 皆、ありがとう……。 今度は僕の番だ……。 護りたい……。 護りたい!

 ミシェルから強い光の波動が生じる。 その勢いにより、ギルバートは後方に飛ばされた。

 遂に覚醒したか……。

 待ちわびたぞと言わんばかりに信長は口角を上げる。

 力に目覚めたミシェルは総てを悟った様な優しい笑みを浮かべ、戦闘態勢を整えた。

「さあ、行くよ!」

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