第18話『二人の来客』
パートナーにしてライバルであるレオン・スミスに勝利する為の鍛錬に信長が加わって二週間が経過した。
この間、ミシェルは着実に力を付けていた。
そんなある日、
「ミシェルよ、お主に良い練習相手を見つけたぞ」
相変わらず自由奔放な信長がどうやら練習相手を連れてきたそうだ。
城内に部外者を連れて入ることは出来ないが、彼は一応あの邪本帝国の長である為、下手に注意したら暴れかねないと考えた王室はある程度の自由を許している。
ある程度は大人しくしてほしいのだけどねー……。
ミシェルの思いを知らない信長は「入れ」と口にすると、訓練場の出入り口からは意外な二人組が入場してきた。
「よっ、ミシェル!」
一番に手を軽く上げて声を掛けて来るはユナイテッド魔法学園が小等部生徒会長ベネット・バーン。 そしてその隣には彼の相棒兼生徒会副会長のジミー・アクアンがのんびりとした様子で軽く手を振っていた。
「二人とも、どうしてここに?」
驚愕を浮かべながら問い掛けるミシェルに「いや、自分をあの邪本帝国の長を務めているノブナガと名乗ってきて俺たちにどうしても練習相手になって欲しいヤツがいるとお願いされて騙されたつもりでついてきたらここに辿り着いた」とベネットが応えた。
ノブナガさん……。
予想を上回る信長の勝手な行動にミシェルは呆れながら自分の額に手を置いて溜息を吐いた。
「しかし、ミシェルって王族の人間だったのだな?」
ほらー、バレちゃったよー……。
自分が王族の人間だとバレると畏まられる可能性が高いのであえて素性を隠していたのだが、遂に二人の生徒に知られてしまった。
「あの、二人とも……、この事は……」
「言わねぇよ。 そして態度を変える気も無い」
ベネットの言葉に続く様に、隣にいるジミーも首を縦に振った。
その言葉に安心を覚えたミシェルはホッと一息吐いて「ありがとう」と微笑みながら礼を告げた。
「話は済んだか?」
早く始めようと言わんばかりに信長は身体をソワソワさせながら急かしてきた。
いったい誰のせいでこんな事になっているのか理解している? とミシェルはあえて口にはしなかった。
「で、一応聞いておくけど今日の訓練のメニューは?」
ミシェルの問いに、信長は口元を緩め、
「勿論、同調した状態の二人をお主一人で倒すことじゃ!」
と胸を張って言った。
やっぱりか、と呆れる様に溜息を零すミシェル。
彼女とは反対に「何だと!?」とベネットとジミーの二人は驚きを隠せないでいた。
「同調した状態の相手をたった一人で立ち向かうなんて無茶だ!」
そんなの出来る筈がない、危険だと言わんばかりに反対するベネット。 そんな彼に同意する様に隣にいるジミーが首を縦に振った。
「いや、出来なければならないのじゃよ」
絶対厳守と言うような信長の発言に今まで感じた事の無い威圧を覚える生徒会コンビ。
「本来、王族の人間と言うのはその一人の力だけで国一つを転覆させることが出来る存在なのじゃ」
しかし、と信長は目を瞑りながら言葉を続ける。
「ミシェルはこの通り、その本来の力を発揮出来ておらん。 仮に同調した状態のお主たちを倒せたとしても此奴の相棒にはそう遠くは及ばんじゃろう」
まさか王族の人間にそれ程の力があったなんて……。 では、何故ミシェルは今までその力を発揮できていないのだろうか? いや、それよりもレオンだ。 奴はそれと同等の力を持つと言うのか……!? だとしたら、あいつはいったい……?
ベネットとジミーはますますミシェルやレオンの存在について謎が深まる一方だった。
「兎に角、ミシェルの力を目覚めさせる為、暫くの間、力を貸してやってくれ」
信長の頼みにベネットとジミーは「解った」とそれを承諾した。
「ゴメンね。 僕が不甲斐ないばかりに……」と申し訳なさそうに謝罪するミシェルに対してベネットは「困った時はお互い様、だろ?」と爽やかな笑みを浮かべた。 それに賛同する様にジミーは首を縦に振った。
「ありがとう……」とミシェルは二人に礼を告げて訓練に取り掛かった。
「三人とも、準備は良いか?」
信長の問い掛けに、「もちろん」と返す三人。
では、と信長は右腕を前に差し出した。 それと同時にミシェル、ベネット、ジミーの三人は戦闘に入る構えを取る。
「始め!」
勢いよく右腕が振り上げられ、訓練が始まった。
「『同調』!」
ベネットとジミーは光に包まれると共に融合した。
「さあ、行くぞ! ミシェル!」
ベネットジミーの同調体は得意の混合魔法、「ミスト」を唱えてミシェルを霧で包み込んだ。
どこから攻撃を仕掛けられても良いように、ミシェルは全神経を研ぎ澄ませる。
レオン一緒に戦った事を思い出すんだ。 この混合魔法は徐々に魔力を消費していく。 冷静に対処していけば勝機はある筈だ……!
すると、後方から攻撃の気配を感じたミシェルはすぐにそちらに振り向いて腕を交差して防いだ。
攻撃を防がれたベネットとジミーの同調体は何かを考えたのか、霧を解いた。
その行いに疑問を抱いたミシェルは「どうしたの?」と首を傾げるとベネットとジミーの同調体は「なに、プランを変えるんだ」と答えると同時に目にも留まらぬ速さで彼女との距離を詰め、右の回し蹴りを放ってきた。
ミシェルはそれを無理矢理左腕でガードする。 しかし、威力が強すぎたのか、そのまま横に足を引きずる様に飛んでいく。 それに追い打ちをかけるようにベネットとジミーの同調体は水で精製した矢と火で制止した矢を数本彼女に向かって放った。
「クッ! ライト・シールド!」
光の盾で防ぐミシェルに、ベネットとジミーの同調体は韋駄天、彼女の後方へと回り込み、蹴りをお見舞いする。
諸に喰らったミシェルはそのまま勢いよく前へと倒れる。
「どうした! ミシェルよ! 動きが鈍いぞ! その程度の力量では主の相棒の足元にも及ばんぞ! もっと敵を殺す勢いで掛からんか!」
彼女の鈍い戦いぶりに苛立ちを覚えたのか、信長は叱咤を飛ばす。
殺す勢いで掛かれと言われても……。
修羅場を潜った事がないミシェルにとって、彼の言葉は理解し難いものである。
今までおんぶに抱っこが当たり前の環境で育ってきたミシェル。 その附けが回ってきたことに今更後悔の念を覚え、拳を強く握り締め歯ぎしりをした。
「ミシェル……」
ベネットとジミーの同調体はミシェルを見て何かを感じたのか、分離して訓練を中断した。
「どうして同調を解いたの?」
「これ以上やっても無意味だと感じたからだ」
ミシェルの問いに、ベネットが代表して答えた。
やっても無意味。 自分に気を遣ってくれている筈の言葉が鋭いナイフで抉られるかの様な感覚を味わう。
故に、ミシェルは今にも溢れ出そうな悔しさを抑えるように唇を噛みしめて堪えた。
「なに。 まだ時間はある。 焦らずに感覚を身に付けておけば良い」
しかし、同調状態のベネットたちの混合魔法を意図も容易く破った。 腐っても王族の人間と言うことかの……。
「ミシェル。 また明日頑張ろう」
そう言ってベネットはミシェルに手を差し伸べる。 彼のパートナーのジミーもそれに賛同しながら首を縦に振り同じように手を差し伸べた。
対してミシェルは申し訳なさそうな表情を浮かべて「ありがとう」と差し伸べられた手を握り返して立ち上がった。
本当に僕は……、強くなれるだろうか……? レオンを超えられるだろうか……?
そんな不安を抱きながら、ミシェルは今日の訓練を終えるのだった。
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