第15話『暫くの決別』
魔闘祭が終わり、三ヶ月の月日が経過した。
少し肌寒くなった十月。
生徒たちの制服の衣替えが始まり、カッターシャツで肌寒さを凌いでいる。
いつもの授業、いつもの風景、いつもの仲間。
特に変わっているものはなかった。
そう、ある二組を除いては……。
レオンは珍しく憂いに満ち溢れた表情を浮かべながら勉強机に頬杖を突きながら教室の窓を眺め教員に聞こえない様に深い溜息を吐いた。
その理由の原因であるミシェルは申し訳なさそうな表情を浮かべながら姿勢正しく本日最後の授業を受けていた。
暫くして、チャイムが鳴り、生徒たちが教員に一礼をして授業を終えるとミシェルはレオンを避ける様にさっさと勉強道具を通学鞄に直して帰りのSHRを受けずに教室から出て行った。
それによりレオンは更に深い溜息を吐きながら勢いよく両肩を落とした。
「だ、大丈夫……、じゃ、ないですねレオンさん……」
心配して寄って来たフィリップにレオンはミシェルの影を覚え、「ミシェル……」と何とも情けない声を出しながら抱き付いた。
その姿、まさに重症と言っても過言ではない。
それを見て苛立ちを覚えたフィリップの同調パートナーであるジョニーが「俺の許可無しで勝手にフィリップに抱き付くんじゃない!」と一蹴した。
寧ろ許可を貰ったら抱き付いても良いのだろうか? と考えるレオン。
「全く、いったいお前ら二人の仲にいったい何があったんだ?」
ジョニーが問いかけるとレオンはハッ! と我に返り、ミシェルとの間にあった出来事を思い出したのか次第にどんよりと暗い表情を浮かべながら顔を俯かせそのまま体育座りをして本日何度目か解らない深い溜息を吐いた。
余程二人の間に気まずい出来事があったのだろう。 レオンの落ち込み具合からそれが手に取る様に読み取れる。
「話辛い事なら無理に説明しなくて良いぞ?」と気を遣うジョニーの言葉に「いや、話させてくれ」とレオンは顔を俯かせたままミシェルとの間で起こった出来事を包み隠さず話した。
それは魔闘祭が終わって一週間が経ったある日の出来事……。
×××
七月も四週目に突入し、ユナイテッド魔法学園の生徒たちが待ちに待った夏休みが訪れた。
「レオン、話があるんだ」
リビングでミシェルがいつになく真剣な雰囲気を纏いながらソファで新聞を読むレオンに声を掛ける。
雰囲気から真面目な話をするのだろうと感じ取ったレオンは手に持っている新聞をそこらに置いて、姿勢を正して耳を彼女に耳を傾けた。
「僕、暫くここを出て行くから」
沈黙が走る。
ここを出る? 何故?
「どうした?」とレオンが聴くとミシェルは目を逸らしてその理由を話した。
「いつまでもこのままじゃダメだと感じたんだ」
ダメだと感じた? 何がだろうか?
「魔闘祭の決勝戦。 僕はレオンの力があったからこそ優勝出来たと思っている。 寧ろ君がいなければこれからも優勝を経験することはなかっただろう」
その時、僕が感じたのは、とミシェルは拳を握りしめ、眉間に皺を寄せながら言葉を続ける。
「レオンのパートナーである僕が、何も役に立てていない事だ」
パートナーの自傷的な発言に、レオンは怪訝な表情を浮かべた。
「そんなことはないぞ?」
「じゃあ、僕はいったい君の何の役に立てたと言うんだい?」
ミシェルの問いに、レオンはすぐに答えを返す事が出来なかった。
彼の様子に、ミシェルは「ほらね」とどこか諦めたかの様な表情を浮かべながら小さく息を吐く。
「もう守られるだけのお姫様でいたくないんだ」
だからと言って出て行かなくても良いだろう、とレオンが説得を試みるが、彼女は頑なに首を横に振ってそれを拒んだ。
「大切な存在と距離を置く事で自制心を鍛える」
「そこまでして俺と距離を置いて何をしたいんだ?」
するとミシェルは顔を俯かせ、黙り込んだ。
窓を閉め切って冷房を入れていると言うのに外からの蝉時雨がやけに耳に障る。
そして暫くしてからミシェルが顔上げてそれに答えた。
「レオンを超えたい。 そしてレオンの相応しいパートナーになりたい」
何とも単純で、でもどこか決意に満ちた言葉だった。
本気なんだな……、とレオンは迷える子羊に手を差し伸べる神父の様な優しい笑みを浮かべた。
「解った。 そこまで言うのならやってみると良い」
だが、とレオンは立ち上がってミシェルに歩み寄り彼女の両肩に手を置いて言葉を続けた。
「俺も負ける気は一切無いからな?」
勝利宣言をしたレオンに対して「そうでなくては」とミシェルは口元を緩めたのだった。
×××
「と言う事があって、俺とミシェルは来る日が訪れるまで別居して修行する事になったんだ……」
そんなことがあったのか……。 確かに、あのミシェルが魔闘祭を制する事が出来たのはレオンのお蔭と言っても過言では無い。 コイツが完璧すぎる力を持つ故に、劣等感を覚えたのだろう。 とジョニーは思い耽る。
「そんな事があったのですね……」とフィリップは苦い笑みを浮かべた。
「ミシェル~……」とレオンは再び情けない声を上げながらフィリップに抱き付く。
それを見たジョニーは額に血管を浮き上がらせ「だから俺の許可なく引っ付くんじゃない!」とフィリップをレオンから引き剝がした。
するとレオンは不満そうに頬を膨らませ、「じゃあ、許可を得たら抱き付いて良いのか?」と聴いた。
それに対してジョニーは「貴様にフィリップを抱き付かせるくらいなら、俺を抱き付かせてやる!」と言い張った。
「何の癒しも得られない!」とレオンは叫んだ。
「失礼な」とジョニーは眉根を寄せた。
暫くこんな日々が続きそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます