第14話『ダンスパーティー』
レオンは鼻歌を歌いながらネクタイを締めて、黒の燕尾服に身を包み、リビングへと移動した。
「似合っているよ、レオン」
黒のスーツに身を包んだミシェルが頬を少し朱に染めて言うと、レオンは満更でもない笑みを浮かべて「ありがとう、行こうか」と言って学生寮から出る。
ミシェルもそれに続いて学生寮から出て行った。
大広間に辿り着いたレオンとミシェルに「来たか」と声を掛けるは黒いスーツを身に纏ったユナイテッド魔法学園、小等部生徒会長のベネットだった。
彼の後ろにはいつもの生徒会役員たちがついていた。
「美少年、美少女軍団がお揃いで」とレオンが皮肉めいた言葉を投げるとベネットは満更でもないように鼻で笑って胸を張った。
「レオンさん! ミシェルさん! 優勝おめでとうございます!」
フィリップは相も変わらず人懐っこい笑みを浮かべながら二人の優勝を称えた。
「ありがとう」とレオンとミシェルは返した。
その時、突然大広間の照明が消える。
真っ暗な闇の中、何事だとその場にいる生徒たちは辺りを見渡しざわつき始める。
すると、ステージの方に一つの明かりがついた。
生徒たちや教員たちがそちらに目を向けるとそこには魔闘祭小等部の進行をしていた司会者がマイクを片手に立っていた。
「皆さん! 魔闘祭お疲れ様でした! これより、ダンスパーティーを開催したいと思います! 今日を機に想い人に告白するも良し! 食事を楽しむも良し! この時間を思う存分満喫してくれ!」
刹那、歓声が大広間全体に響き渡る。
その反応に満足がいったのか、司会者はうんうんと首を縦に振りながら「それではダンスパーティーの始まりだ!」と指を鳴らした。
それと同時に大広間の明かりがつき、音楽が流れ始める。
生徒や教員たちは一斉に異性と手を取りダンスを始める者もいれば、用意された料理を堪能する者もいた。
「れ、レオン」
ミシェルはレオンをダンスに誘おうとした時、多くの女生徒が彼にダンスの申し込みをしてきた。
パートナーのミシェルの目の前でレオンは断る事無く女生徒たちの相手を始める。
それを目にしたミシェルは溜息を吐きながら肩を落として落胆した。
「流石レオン、モテモテだな」
まるで彼女の心情を察しているかの様な口振りで意地の悪い笑みを浮かべるベネット。
「ベネットは踊らないの?」とミシェルが聴くと、彼は何かを思いついたのか、「俺と踊らないか?」と手を差し伸べてきた。
えっ? とミシェルはベネットの問題発言に「まさか君にそっちの気があるとは思わなかったよ」と半歩下がった。
「ねぇよ」とベネットは心外だとでも言いたげな表情を浮かべながら否定した。
「良いから俺と踊れ。 それに話したい事もあるしな」
そう言ってベネットは半ば強制的にミシェルの手を取ってダンスしている生徒や教員たちの輪に入る。
生徒と教員たちは予想外だったのか、ギョッとしながら二人に視線を向ける。
ベネットはこう言った経験が豊富なのか、慣れた感じでミシェルの腰に手を回す。 それと同時にミシェルも彼の肩に手を回して流れている曲に合わせながらダンスを始めた。
「なあ、ミシェル。 ずっと聴きたかった事があるんだけどさ……」
「な、何だい?」
「お前、女だろ?」
え? とミシェルは思わ止まってしまった。
どうしよう、何て答えれば……。
返答に困ったミシェルにベネットは一人合点し「大丈夫、誰にも言わないさ」と優しく微笑み彼女に合図を送ってダンスを再開する。
「どうして解ったの?」
踊りながら問うミシェルに「最初は女性の顔つきをした男の子だと思っていた。 でも転校してきたレオンを見るお前の目と雰囲気で確信した」とベネットは答えた。
「べ、別に僕はレオンの事なんて……」とミシェルは頬を朱に染めながら彼から視線を逸らす。
「じゃあ、俺がミシェルを狙っても良いんだな?」
ベネットの二度目の問題発言にミシェルはえ? と思わず立ち止まって不安気な表情を浮かべながら彼を見上げる。
お互い黙って見つめ合う中、暫くして彼が「冗談だ」と微笑み彼女を解放した。
「結ばれると良いな?」
そう言ってベネットは何事も無かったかの様にパートナーのジミーの下へと去って行った。
ベネットと踊った後、ミシェルは次々と女生徒から声を掛けらえれてはダンスの相手をして、告白される。
彼女は同性から告白される事に複雑な表情を浮かべながら申し訳なさそうにやんわりと断っていく。
そうしていく内に残り時間も僅かとなってしまった。
踊り疲れたミシェルはグラスに入ったオレンジジュースを手に取って渇いた喉を潤し、そのまま深い溜息を吐いた。
「よう、ミシェル。 モテモテだな?」
からかう様に笑いながらミシェルの前へと戻ってきたレオン。
対して彼女は頬を膨らませ不機嫌そうに「そんな事を言われても嬉しくないよ」と返した。
ご機嫌斜めなパートナーに今度は苦い笑みを浮かべながら「ゴメン」とレオンは軽い調子で謝った。
そんな彼に全く、とミシェルは不機嫌に感じながらもどこか憎めないのか、口角は自然と上がってしまう。
それに安心感を覚えたレオンはここぞと言うタイミングで右手を差し出した。
「俺と一曲踊って頂けませんか?」
キザったらしい表情と声音にミシェルは「似合わないよ」と思わず小さく吹き出して彼の手を取った。
「こう言うのは雰囲気が大切だろ?」
レオンの発言に、「それは間違いない」とミシェルは嬉しそうに微笑んで彼と共にダンスの輪に入って踊り始める。
「ベネットと何を話していたんだ?」
踊りながら聴いてくるレオンに対してミシェルはベネットとの会話を思い出す。
結ばれると良いな?
生徒会長の言葉に、ミシェルは頬を朱に染めて「別に、何でもないよ」とレオンから視線を外す。
その表情はどう見ても何でもない訳がない。
彼女の不自然な様子にどこか不安を覚えたレオンはミシェルに腰を回している腕の力を少し加えた。
「レオン……?」
パートナーの小さな異変にミシェルはどうかしたのか問いかける。
「俺はミシェルとずっと一緒いたい……」
告白にも似た発言にミシェルは思わず頬を朱に染めた。
「それって……」
「この感情がいったい何なのかは解らない……」
でも、とレオンは更にミシェルの腰に回している腕の力を強め引き寄せる。
「俺はミシェルと一緒にいたい……。 これからも、ずっと……」
そうか、そうだよね……。 今思えば恋なんて僕にも解らない。
よく解らない胸の高鳴りを緩和する様にミシェルは彼の胸元に自分の顔を押しつけた。
「僕もずっとレオンと一緒にいたい……」
そう、よく解らない感情を抱いたまま……。
魔闘祭編・完
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