第13話『決着』
「これより蹂躙を開始する……!」
ギルバートとアルバートの同調体は目にも留まらぬ速さで距離を詰め、レオンとミシェルの同調体を殴り飛ばした。
レオンとミシェルの同調体は体勢を整えるもすぐに双子の同調体に容赦なく追い打ちを掛けられる。
「さっきまでの威勢はどうしたよ!? えぇっ!?」
双子の同調体は何度も、何度も、何度もレオンとミシェルの同調体を殴る、蹴るを繰り返した。
一方的な暴力に居た堪れなくなって目を逸らす観客もいた。
暴力の限りを尽くしたギルバートとアルバートの同調体は、肩で息をしながらレオンとミシェルの同調体から離れた。
勝った……! 俺たちは勝ったんだ……! そう感じた時だった。
「気は済んだか?」
ギルバートとアルバートの同調体はゆっくりと声の方へと振り向く。
そこには自分たちが戦闘不能になるまで蹂躙した筈の対戦相手の同調体がいた。
レオンとミシェルの同調体は口の中に溜まっている血を地面に吐きつけ双子の同調体に鋭い眼差しを向ける。
馬鹿な……。 何故、何故立っていられる……? あれだけの攻撃を耐えたとでも言うのか……!?
予想外の展開にギルバートとアルバートの同調体は目を泳がせながら二歩ほど後退る。
「今度は俺たちの番だ。 『魔装』!」
闇と光に包まれるレオンとミシェルの同調体。 その闇と光が収まるとそこには背中に白き翼と黒き翼を生やしたレオンとミシェルの同調体の姿があった。
「魔装……、だと……!?」
驚愕を顔に浮かべるギルバートとアルバートの同調体。
そしてそれは次第に嫉妬、怒りに変わり、雷の矢を放つ。
レオンとミシェルの同調体は難なくそれを闇で精製した盾で防ぐ。
それと同時にレオンとミシェルの同調体は両手の人差し指をギルバートとアルバートの同調体に向けた。
「ライト・バレット。 ダーク・バレット」
魔法名を唱えると両手の人差し指の先から光の弾丸と闇の弾丸が放たれる。
「サンダー・アロー! ウィンド・カッター!」
ギルバートとアルバートも魔法で応戦するが、レオンとミシェルの同調体が放った光と闇の弾丸の威力が勝り、そのままくらってダメージを負う。
「何故だ……? 同じ魔装をしている状態なのに……、同調率一〇〇パーセントなのに……、何故こんなにも差がついているんだ!?」
ギルバートとアルバートの同調体は我武者羅に魔法を放つが全てかわされては反撃を受ける。
何故だ、何故……!?
「俺たちとお前ら、いったい何が違うって言うんだっ!?」
拳を強く握り締め、咆えるギルバートとアルバートの同調体に対して、「鍛え方が違うんだよ」とレオンとミシェルの同調体は口元を緩めた。
鍛え方が違う。 それは、同調した状態のギルバートとアルバートの同調体が単体のレオンに初めて敗けた時に言われた言葉。
思い出す度にギルバートとアルバートの同調体は歯を強く噛みしめ、「自分たちが特別だとでも言いたいのかっ!?」と叫んだ。
対してレオンとミシェルの同調体は指先で頬を搔きながら、気まずそうに相手から目を逸らして「まあ、あながち間違いじゃないな」と答えた。
それが双子の同調体の逆鱗に触れたのか、彼らは咆哮を上げながら雷をバチバチと激しく放出する。
すると空が黒い雨雲に覆われる。
まさかっ!? と観客席で観戦していたアントニーが何か勘付いたのか、「レオン、ミシェル、逃げろ!」と叫んだ。
「終わりだ……! ザ・ライトニング!」
以前ギルバートがミシェルに放った最上級魔法のサンダー・ボルトよりも一際大きい雷が、対戦相手の同調体に向かって落ちる。
「ザ・カオス」
レオンとミシェルの同調体は焦る事無く、ただ魔法名を唱えた。
その瞬間、混沌がその雷ごと呑み込み、ギルバートとアルバートの同調体を襲った。
余りの爆風に目を瞑る観客たち。
それが収まった時、どうなったと闘技場のステージへとすぐに視線を向けた。
そこにはボロボロになって分離した双子の姿があった。
彼らは俯せになって倒れて動かない。
するとアントニーがやってきてすぐに双子の安否を確かめた。
呼吸している事を確認すると彼は「審判」と口にした。
それに頷いて審判は「ギルバート、アルバートコンビ、戦闘不能の為、勝者、レオン、ミシェルコンビ!」と告げた。
ドッと歓声が沸き上がる。
レオンとミシェルは分離して深く息を吐いた。
「レオン! ミシェル!」と生徒会役員たちは優勝した二人の下へと向かっていく。
「おめでとうございます! レオンさん! ミシェルさん!」と二人に飛びつくフィリップ。
「よく勝ったな! おめでとう!」と称賛するジョニー。
「おめでとう、と言っておきますわ」と少し照れ臭そうに両腕を組むアンナ。
「お、おめでとうございます!」と何故か泣きそうになるケイシー。
レオンとミシェルは「ありがとう!」と笑った。
「魔闘祭、小等部の部、優勝はレオン、ミシェルコンビ! おめでとう! 皆、彼らの戦いぶりに拍手を!」
司会者の言葉に、レオンとミシェルは観客たちの拍手に包まれたのだった。
その時、レオンは辺りを見渡す。
闘技場に双子の姿が見当たらなかった。 きっとアントニー保険医が医務室へと連れて行ったのだろう。
レオンは口元を緩め、勝利の余韻に浸るのであった。
目を覚ますと、薬品の様な香りが鼻をくすぐった。
ギルバートは目で辺りを見渡す。
白いカーテン、白い天井、白いベッド。
ここが保健室であることに気づくと同時に、自分たちが魔闘祭でレオンとミシェルに敗北した事を察した。
カーテンが開かれ、中に入ってくるは、所々怪我している部分を包帯で巻かれた大切な双子の弟のアルバートだった。
「兄さん、大丈夫?」
心配そうに近づいてくるアルバートに、「お前の方こそ大丈夫か?」とギルバートは上半身を起こした。
アルバートはベッドの近くにある椅子に座ってただ「敗けたね」とどこかおどける様に微笑んだ。
「そうだな」とギルバートは意外にも口元を緩めた。
沈黙が走る。
それから暫くしてアルバートが口を開いた。
「また来年、彼らに挑戦しよう」
その言葉に、ギルバートは大きく目を見開いた。 そしてそれは新たなる目標を見つけた輝きへと変わる。
「そうだな、このままじゃ終われねぇ……!」
待ってろ、次は必ず俺たち風雷坊が勝つ……!
ギルバートは静かに拳を強く握り締め、前を見つめるのであった。
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