第21話再会 一
田川まこと。私は二十一歳の春、専門学校を卒業した。
予定より一年遅れたけれど、父の遺産の凍結は解消されて、これまで借りていた学費を吉田さんに返済した。
同時に、彼は私の保護監督者という役目を終えた。
私はこれから独立し、介護士として、高齢者対象の介護施設で働くことになる。
そして、この瞬間、お金を自由に使える立場になった。
「本当に、いろいろとお世話になりました」
「こちらこそ。あなたの成長を見届けられて、僕も嬉しいです」
深く頭を下げる。吉田さんへの感謝は偽りではない。
約九年前、私は彼の勧めを受け、新しい環境に飛び込んだ。
新しい「箱」ーー児童養護施設では、私は決して珍しい存在ではなかった。
親を亡くしたり、虐待を受けて保護されていたり、実にいろいろな事情を抱えた子どもたちに紛れ、あくまで私もその一人という立場だった。
そこで私は「普通」の子どもとして、同世代の人との接し方を学んだ。高校時代はアルバイトに励み、社会人というものを知った。専門学校ではアルバイトとの両立が難しいため修学に専念し、社会を知らず理想だけで将来を熱く語る学生を見てきた。
それもすべて、一人で生きるため。つまり、あの女への復讐を計画的に実行するという意味である。
やがてその実行が可能になるのは、吉田さんに立場があってこそ。
もし彼がいなければ私はどうなっていたか、など考えたくもない。
「僕はこれまで見てきましたが、まことさんは本当に聡明な人です……僕が何を言いたいのか、もちろんお分かりですね?」
頭を上げると、吉田さんの表情が頑なで厳しくなっていた。彼の生来の性格も相まっているだろうけれど、本来の弁護士とはこういうものなのかもしれない。
「『父の遺志を無駄にするな』でしょう? しっかりと胸に刻んでいますから、どうかご心配なく」
私は決して子ども時代、決して見せなかった笑顔で答えた。心の中では、誰も自分を止められないと叫んでいたけれど。
吉田さんはそれを見抜いていたのか、弁護士の風格で無理矢理抑えようとしたけれど、私には効かなかった。
今後も相談役として彼と関わることになるだろう。私の護身のために。
けれど後に、結局は己の力不足を悔やむことになるなど、今の彼には知る由もない。
桜吹雪に紛れ、私は吉田さんと別れた。
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