再会の冒険者

 さらに数日経ってようやくお祭り騒ぎも落ち着き、町民は日々の生活を取り戻していた。街路のテーブルは片付けられ、食堂も普通に客を自分の店でもてなしている。俺はいつもの食堂でサンドウィッチと葡萄酒一杯をロッデンベリー・タブとともに胃袋に収めて狩りに赴く。

 たった数日でも引き連れた子供達の狩りの能力は上達しているし、剣士を希望する連中も出て来た。これは少し教え方を工夫した方が良さそうだ。中には獲物を運ぶ方法に興味を持つ子供も現れたので、彼等には木工職人などになることを薦めるべきだろうか。

 そんな風にこれからも日常が続いていくのだろう、そう思っていた俺に珍客が現れた。


 日が傾きかけた頃。子供達にも初めて自分でウサギを狩る者が現れて、少し早めに狩りを切り上げ町に戻ると、衛士から俺宛に客が来ているとの連絡を受けた。俺が常用している食堂に案内したとのことなので、獲物を納めがてら店に立ち寄る。

 そこには、懐かしい面々が揃っていた。

 騎士。魔術師。僧侶。そして盗賊。

 かつて長い時間を共に過ごしたパーティーが、そこにいた。


 再会を祝してワインの大瓶を開ける。大の大人でも注ぐのが困難なボトルを騎士が抱え上げて全員のカップに注ぎ分ける間も、軽く乾杯をした後も、暫く沈黙が続く。彼等の来訪の意図が汲めずに切り出す言葉を探していると……。

 ――済まなかった。

 盗賊が口を開いた。

 何でも、新たなパーティーメンバーの剣士探しが上手く行っていなかったらしい。攻撃タイミングが合わない、背後への注意が足りない、攻撃力が足りない、等々。恐らくそんな些細な問題は俺がメンバーだったときにも山ほどあっただろうが、昔からの馴染みの俺と違い腹を割って話せなかったりと、関係の構築や修復にも問題が山積していたようだ。先日、俺が抜けてから三人目の剣士と決裂したらしい。

 今後盗賊が前衛として攻撃力を上げ、今のパーティーメンバーで活動することも視野に入れ始めた頃、俺が大猿を狩った話が彼等の耳に入った。俺の復帰を知って飛んできたそうだ。

 ――虫の良いことを言っているのは分かってる、けど。

 ――また一緒にやれないか。

 彼等の請う目に一瞬気圧されながらも、俺は応えた。

 ――俺はパーティーを抜けたつもりは無いんだけどな。

 ――ちょっと長めの休暇、楽しませてもらったよ。

 俺が微笑んで見せると、彼等も破顔した。


 食堂を出て、パーティーのを見送る。

 この人数なら少し歩いたところに手頃な宿屋があるので、俺が簡単な地図ともに紹介状を書いて渡した。

 彼等の提げたマジックライトの明かりが街路に消えていくのを見届け、自宅への帰路を辿る。

 コツコツと不規則な足音が石畳の夜道に響く。しばらくの沈黙を破って……。

 ――怖かった。

 俺の隣に残った僧侶が、独りごちるように口を開いた。

 ――貴方以外に守られるのが。

 今まで、とはそんな話題を避けていたように思う。

 俺と彼女は駆け出しの頃からの冒険者仲間で、互いに命を預け合う仲だった。だからこそ互いの関係をぎくしゃくさせるような話はしないように心がけていた。

 けれど今は、心のままにすべてを打ち明けられそうだ。

 家路で今までの想いを互いに告げるか。それとも、今絡まった指を大切に握るか。年甲斐もなく鼓動が高まっているのを感じる。

 そんな幸せを感じられるのも、俺を剣士として復活させてくれたロッデンベリー・タブのおかげだ。

 ありがとう、ロッデンベリー・タブ。

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