狩り暮らしの冒険者

 数日間はお祭り騒ぎだった。大通りに長いテーブルがいくつも置かれ、多種多彩な料理が大量に、そして葡萄酒も振る舞われている。人々は歌い踊り、飲み食い、笑い合っている。

 無理もない、普通なら魔獣の通過を待って町を再建するのが常道と言われるクラスの魔獣だった(らしい)のだ。それを俺が一人で倒してしまったのだから。

 けれど、「我々は伝説を見た」「町から感謝章を授与」「吟遊詩人は今すぐ詩を書け」「記念碑を建てよう」「いやブロンズ像だ」などと言われるところまで来るとさすがに腰の座りが悪くなってくる。

 それでもひとつ助かったのは、この魔獣討伐が早馬で領主に伝えられ、かなりの額の報奨金が出たことだった。この金のおかげで剣を正式に質受けし、また鎧についても買い戻すことが出来たのだ。質屋と資産家、二人とも「町が守られたのだから」と金を受け取ろうとしなかったことには少し手を焼いたが。

 俺は町の子供達に狩りを教えながら、祭のための食料を狩っていた。祭の資金は資産家の老人が出してくれるからそんなことは不要だ、祭の主役なんだからと制止されるが、俺が楽しいんだからと無理を通して山に分け入った。子供達の講義料代わりは獲物運びの人足だ。おかげで鹿と猪、合わせて五頭ほどの獲物を担いで帰ることが出来た。町へ帰るとすぐに飲食店の店主連中が捌き、料理が仕上がっていく。肉屋だの料理人だの、自分の持ち合わせていない能力が発揮されるのを見ているのも、狩りと同じでとても興味深くて面白い。


 だが、俺にはひとつ心配事があった。麻袋の丸薬が底をつきかけていたのだ。

 ロッデンベリー・タブ。これが無くなることに、俺は少しの不安を覚えていた。

 祭のどんちゃん騒ぎからようやく解放され、日は沈んで月明かりもない町をそろそろと帰り道を辿りながら、俺は考えに耽る。

 今後これを飲まなくなった時、俺の右目の呪いがぶり返したりしないだろうか。視力が弱まったりしないだろうか。

 改めてこれを手に入れる方法はないんだろうか。

 袋の木札には村の名前と店名らしきものが焼き印で押されてある。村はストボコー、店名は太陽堂。村の名前は何処かで聞いた記憶がある。さて、その村まで出向くべきか……、そんなことを考えていると。

 ――この薬をお分けしております。二十日分で金貨一枚。

 目の前に現れた老婆が唐突に小さな麻袋を差し出して言った。間違いない、ロッデンベリー・タブを俺に売った老婆だ。以前よりも笑顔が柔和に見える。即座に金貨を差し出す俺に向かって、彼女は驚きの眼を向けた。

 ――おや、薬の内容は聞かれませんので。

 既に一度買っていることを告げると、彼女は相好を崩した。

 また会えるとは思っていなかったので、何をどう聞けば良いか戸惑った挙げ句に、つまらない質問をぶつける。

 ――ストボコーとはどんな村ですか。

 ――ええ、水と空気が奇麗で良い町ですよ。

 それだけを述べて、老婆は消えた。


 とりあえず、薬を飲み切ってしまうという当面の不安は消えた。あとの不安は……、とりあえずロッデンベリー・タブを飲んで寝て起きて、それから考えよう。

 さあ、明日も楽しい狩りだ。

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