閑話

閑話 少年とマジックランプ

 パタン、と手帳を閉じ、深くため息をついた。そのまま我が身をベッドに投げ出す。ギシリ、とベッドがきしみ音を立てた。

 この剣士は冒険を始めるとき、こんな最期を想像しただろうか。そしてこの剣士が駆け出しの自分に出会ったとしたら、どんな言葉をかけるだろうか。

 彼の末期の生活は、見方によっては悠々自適なセミリタイア生活と取れなくもない。それどころか、はっきり言って僕から見ればとても羨ましい生活だ。

 けど問題は心の在り方なんだろう。彼は死ぬまで冒険者として在り続けようとしたのに、呪いのせいでそれが出来なくなった。それは彼にとってはものすごい苦痛なんだろう。その苦しみは僕にとってはあまりに非現実的で、推し量ることは出来ない。

 寝る間を惜しんで最後まで読めば、明日の仕事に響くことは分かっている。けど、彼の人生を最後まで見守りたい。そう思いながら、光の弱まったマジックランプに目を落とす。

 一般人が持つには多少高価なこのマジックランプもこの手記と同じく、去年だか一昨年だかに酒場に忘れられていたのを僕が見つけたものだ。冒険者が魔力を注ぐと数日は灯りが灯り続けるらしいが、一般人の僕程度の魔力でも眠りに就くまでのあいだ室内をぼんやり照らすくらいは可能だ。

 このランプの本来の持ち主も、彼のように夢破れて隠遁生活をしているんだろうか。あるいは今も冒険者として高みを目指しているのか。それとも、どこかの森の奥で……。

 こんな手記を読んでいるせいで、いつもは考えないようなことにまで気が回ってしまう。

 改めてランプに手をかざし、魔力を継ぎ足して灯りを灯し直す。

 気合いを入れ直し、手帳を開いた。

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