立ち去る冒険者

 全員、相当色々溜め込んでいたらしい。

 俺が意識していたもの以外にも、みんな色々な負担を感じていたという。先行する俺の視界が制限されているために魔獣の奇襲を受けたり、通路やドアそのものを見逃していたり。トラップの発動率や魔法発動の失敗率も桁違いに上がっていた、と。

 今回の負傷もそうだ。足を滑らせた魔獣が盗賊に突っ込み、それを躱そうとした盗賊が俺の剣の間合いに浅く踏み入れたことで負わせてしまった傷だ。

 俺の呪いがなければそんな事故は起きなかった。そして万が一起きたとしても、俺の右目が見えていれば途中で剣筋を変えることも出来た筈だ。

 そして、今回の傷でさえ治療可能だった点で言えば不幸中の幸いだったのだ。下手をすれば、盗賊の顔を削ぎ斬りにしていた可能性すら――。


 誰も、何も言わない。その無言の圧迫が、俺を立ち上がらせた。

 別れの言葉もなく、俺はルーキーの頃から慣れ親しんだ仲間のもとを去った。

 俺は呪いを受けて以降、戦いの中で死ぬことを覚悟した。

 けれど、俺にかかった呪いはそれすら許さなかったのだ。


 魔獣もあまり現れない片田舎へ赴いた俺は、鎧などの装備を売り払って小ぶりの家を買った。その町の経済活動で考えると高価すぎる鎧のために、ほとんど物々交換のような買い物になったが。

 しかし、その時点でほぼ無一文になってしまった。はっきり言って生活が成り立たない。家の中にしたってベッドひとつない状態なのだ。

 仕方なく、俺は愛用の剣を質に入れることにした。

 伝説級と言っても差し支えの無いこの剣を手に入れるため、仲間にも随分世話になった。そしてその借りを十分に返すこともしたつもりだ。そのものの価値以上に思い出の染みついた剣を手放す気は無かったのだが、生活が立ち行かないのなら仕方ない。俺がこの世を去った後、新たな冒険者の相棒なり人々を守ることを祈っている。

 けれどそれまでは、名目だけでも俺の物として置いておきたい。

 そう思いながら、ポケットに突っ込んだ質札とともに葡萄酒とパンを買って帰った。

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