直観する冒険者

 あの日もとある町に入ると町長が直々に宿屋へやって来て、一般の冒険者には任せられないという討伐任務を依頼してきた。

 近隣の魔獣のボスとして君臨する植物系の魔獣で、毒や麻痺など癖のある攻撃をかけてくるらしく、そこそこ経験を積んだ冒険者ですら生きたまま戦闘力を奪われて生命力を奪われるという。

 俺達にしてみれば大して深いわけでもない森の最奥部、そこに陣取るツタの塊のような魔獣は無数のツルを触手のように操り、確かに攻めにくい相手ではあった。けれど騎士に守られた魔術師が牽制をかけて盗賊が切り込み、剣士の俺が僧侶の祝福を受けた身で突っ込んで根元と思しき太いツタを両断すると、ツタの魔獣はその身をわさわさと震わせ、みるみるうちに葉の色を緑から茶色に変え、さらにその葉を散らせていった。


 俺に油断があった。それは間違いないだろう。だが。

 どこから発声しているのか断末魔の叫びとともに、怪しい魔力を纏った細いツルが俺の方に鋭く伸びた。

 漫然としていた俺は躱す身が追いつかず、辛うじて直撃は避けたものの右目に薄く傷を受けた。

 ツタの魔獣はそのまま朽ち果てた。目の傷を軽傷と侮っていた俺は僧侶の回復の手を断り、町長への報告を優先させた。

 感謝の宴を申し出る町長の申し出を受け流しつつ、僧侶は俺の治療を試みた。

 俺が戦闘中に気を抜いたのが悪かったのか。俺が僧侶の応急処置を受けなかったせいか。僧侶に今以上の技量が必要だったのか。あるいは何か他に対策があったのかも知れない。だが。

 俺に掛かった呪い、そして呪いにより失われた俺の右目の視力は、どうやっても戻らなかった。


 その日以降、俺は満足な戦闘が行えていない。

 単独で戦うなら特に問題は無い。自分の剣を振る範囲なら背後であってもある程度の間合いは計れる。

 けれど俺に掛かった呪いは、俺の視力だけでなく俺の幸運も奪っていくらしい。たまたま転がってきた小石でモンスターが転び、背後から何の戦意もなく突っ込んできた魔獣を躱しきれずに突っ伏す羽目になった。

 駆け出しの冒険者なら「俺が未熟なせいだ」と言い訳をしてまた日々を過ごすんだろう。

 けれど俺は――


 俺はこの時、自分の限界を直観した。

 もう俺は仲間の助力なしにまともな戦闘は行えないだろう。

 そしてこの俺の不幸は、いつか仲間を、俺自身を殺す。

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