第4話 先刻、公演が終わった
先刻、公演が終わった。
考えていたよりも、酷く堪(こた)えていた。
すぐにでもハルカのもとへ駆けつけたい気持ちを押さえつけて、来賓への対応や諸々の指示を出す。
テルセラの横に大人しく座っていた彼女だったが、どうも様子がおかしかった。
──あれって、泣きそうになってた……よな?
考えに沈みそうになっているところへ、
「やーゴメンゴメン! ボスの衣装がセクシーでつい剣先が狂っちゃってさ、引っかけちゃったよー大丈夫だった? ……ってか、紙一枚ぐらいだよねぇ。首とか切り落としてたら今頃、只じゃ済まなかったよねぇ、いやぁ、あぶないあぶない、ラッキーでしたっ! 」
ピンクの髪を結い上げ直しながら、イザルティが鳥みたいに勢いよく話しかけてきた。
頭が痛くなりそうだ。
「ボス、今日は例のハルカって彼女も呼んでたんでしょー? 来てたよねぇ、テルの横にいた子? 」
「……お前、ホンッとうるせぇ、黙れよ少し」
邪険に返すと腰に手を当ててムッとする。
「なぁにー機嫌悪いの- 」
「……」
「おーい、ボス? 」
心配そうに顔を覗き込まれるに至って、愚痴がこぼれる。
「くそ……このあとの予定、オールキャンセルしてぇ」
呟きに、「そりゃ無理でしょ」と即答される。
「ふひひ。どうしても、っていうんなら、おじいちゃんにダメ元で確認してみる? 」
「……いい、わかっている。ノワゼに確認するまでもない。……言ってみただけだ」
──俺にもわかっている。立場上、ここで抜けるわけにはいかないのだ。
このあとの関係各所との繋ぎのためにも、祝賀会に臨席し、労(ねぎら)いのスピーチをしなければならない。
まぁ、祝賀会とは名ばかりの、夜明け近くまで続く打ち上げパーティだ。
祝賀会は商談の場でもある。
もとより、数年前から始められたこの「講演会」では大学を介して異界渡りから得た様々な最新の技術や知識を、これでもかと披露する場なのだ。
異界からもたらされた科学・工学・産業・文化や芸術・経済システムに至るまで、舞台上で、音楽や舞踊などの分かりやすい形を通じて般市民に広める目的だ。
無論、別会場では各所の会議室などを使い、医療や科学技術、それに武器や防具、戦術などのキナ臭い情報のやり取りも秘密裏に行われている。
他愛の無いような技術が、知識が、アイディア次第で大きな商売へと繋がる。国を引っ繰り返すような、文明を根こそぎ覆すような技術へと道が繋がっている。
祝賀会に参加する身分ではないような者達も、会場に近い歓楽街で、公演から流れてきた技術者とのコンタクトを求めて、出資者達が各所で熱い商談や議論を語り、飲み明かす。
俺は腐っても王族である。日頃からかなり自由に動くことを許されてはいるが……今日ばかりは勝手な真似は許されない。今後の国の動向を測る上でも大事な場だ。
「なんでもない。聞かなかったことにしてくれ」
心配顔のイザルティに手を振る。
幸い、ハルカのことはテルセラにエスコートをさせているから、帰宅までは問題なく出来るはずだ……焦る気持ちを、どうにかねじ伏せた。
バックヤードに顔を出してくれるかと思ったが、淡い期待を裏切って……というか案の定、来ることはなかった。
──やはり、何かあったのだ。
また故郷を思い出したのだろうか。
側に行って抱きしめ、慰めてやりたい。
もどかしい思いを胸に責務を果たし、朝一番にハルカのアパートを訪問した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます