第7話 テルセラさんに牽制されながら
テルセラさんに牽制されながら、テーブルに腰掛けてイェスタはふて腐れている。
「……だから、なんでそういう話になるんだよ」
「だって、会って欲しい人が居るとかって、言ってたじゃない」
「は? イザルティは別に関係ないし。おまえに会わせたいヤツは別のヤツだぞ」
──うう……私の勘違いってことなのか。
ベッドの中でしゅん、として小さくなる。
一人で勘違いして、一人で突っ走って妄想して、一人で落ち込んで……バカみたいだ。
「だって、昨日の舞台であんなに……してたら、彼女だって、誰だってそう思うじゃん」
「……ちゃんと解説とか聞いてなかったのかよ。アイツは俺と同じで王立学校で近接戦の研究してんだよ」
大仰に溜め息をついて、イェスタは頭を振った。
「……おまえさ、ホントに話、聞かねぇよな」
組んだ足の上に頬杖をついて、紫暗の目で私を睨む。
「だって、知らない言葉ばっかりだったし、よくわかんなかったし……」
そうやって言い訳すると、チッ、と舌打ちした。ううう。怖くないもん。
「テルセラ……呼んだんだろ? 」
「はい。至急来るように要請しましたから、そろそろ来るかと」
「そうか」
……あれかな。例の「会わせたい人」を呼んだのかな。
ボソボソと2人がやり取りしてる。
「お言葉ですが、イェスタ様がそのように説明をされないせいで、ハルカ様が悲しむ事になるのではありませんか。口を出すなと言われましたが、このような状態が続くのでしたら……」
「うるせぇよ。黙ってろ」
「いえ。この際ですから言わせて頂きます」
「嫌(ヤ)なんだよ。もう少し色々決まるまで……」
「もっと異界渡りの者の心情的な面について理解をしたほうがよろしいかと存じます」
よく分からない会話だけど、テルセラさんにビシッと言われて、なにか思い当たるところがあるのだろう「くっそ……」と、睨んでいる。
意味の分からない険悪そうな会話に、オロオロしてると、階下から軽やかな足音と重そうな足音が聞こえた。
勢いよくドアが開く。
「ねえ! イェスタが痴話喧嘩って、ホント!? 」
ハスキーな、妙に耳に残る印象的な声が、嬉しそうに叫んだ。
ピンクの長い髪。淡い色素。けぶるような濃い睫毛にオレンジの目がキラキラと輝く。
この人……
「誰が、痴話喧嘩だ、だれが! 」
迷惑そうにイェスタは振り向く。
「あ! ねえねえ、この人でしょう、ハルカって! 」
軽やかな足取りで一気に距離を詰めて私の両手を取り、ブンブンと振った。
「さわんな、イザルティ! 」
機嫌の悪いイェスタが吠えたけど、テルセラさんに押さえられて出遅れた。
「いやー昨日、観に来てくれてたでしょ。わぁ、本当に綺麗な髪、うふふ、会いたかったぁ! 」
「え、えーと……」
「チッ、さわんなって言ってるだろ! 」困惑してる私をよそに、イェスタは興奮気味だ。
「はいはい、ボス!……了解デース」
パッとピンク髪の人は手を放してバンザイしてみせる。
テヘッ、と可愛らしい仕草も厭味じゃありません。はにかんだような笑顔もチャーミングです。
あー……? でも、なんかイメージとかなり違う感が……?
「あの。失礼ですがイザルティさんって、もしかして」
「気が付いたか。そいつも異界人だぞ」
──は?
いやいや、そうじゃなく。
「あ。見せよっか? 」
──は?
ちょ、まっt……
止める間もなく、目の前でイザルティさんは、思い切りよく服を脱ぎ捨てていく。
っええええ! どういうこと?
なぜに突然のストリップショー!?
イェスタは、それを冷ややかな視線でながめている。
いや、ちょっと……そん……
上着を脱いだら、包帯のようにグルグル巻きに白い布が身体に巻かれていた。
アレよ。任侠の人が巻いてるのをヤクザさんの出てくるドラマで見た覚えがあるよ。
サラシってやつだよね。
イザルティさんは、さらにそれを、鼻歌でも歌いそうな気軽さでクルクル解いていく。
ひらり、と。最後の布の端が床に落ちた。
「あ」
──意外と筋肉質なんだなぁ……じゃなかった。
バサリ、と風をはらむ音と共に1m程の白い翼が広がった。
片翼だけだ。
「退化しているからさ、大抵、大人になる前に落ちちゃうんだよね。このハネ」
それよりも。この人……
胸がないよ!?
「……おっ、おと……男の人だったの!? 」
「え? 」
「は? 」
「そこ? 」
「ほう? 」
私の悲痛な叫びに、三者三様の感嘆がかえってくる。
なんか……いつの間にかもう1人、頭数が増えてないか?
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