第6話 寝苦しくて、目が覚めた
寝苦しくて、目が覚めた。
右手が動かない……
……か、金縛り!?
遠くに漂っていた意識を、全力で気力を振り絞って現実に引っ張り戻した。
まだ日は沈みきっていない。
淡い夕焼けの光が部屋に差し込んでいた。
腹の上に、見覚えのある濃い藍色の髪。
まじまじと見ると、一部が金属光沢のある銀へとグラデーションになってる。
「っちょ! どこで寝てんのよ! 」
見ると、右腕はコイツにガッチリと捉えられて、血行が悪くなってるのか痺れさえ感じる。
そりゃあ、格闘技オタクの握力で握られれば、血も止まるよ!
気持ちよさそうに寝てる長い睫毛が震えた。
おおぅ。そうか。イェスタって睫毛まで藍色なんだな。
つか、起きて下さい。おなかに体重かかってて苦しい! 手が痺れてるよ!
「ん……ハ、ルカ? 」
ボンヤリとした顔をもたげて私を認識すると、にへら、と笑って、また脱力したように突っ伏した。
こいつ、寝ぼけてるな。……不覚にも「あっ、かわいい……」とか思っちゃったじゃないか。
年上のはずなのに。なんだか2歳離れた弟を思い出す。
「ちょっと、イェスタ、あんたなんでここで寝てるのよ」
「……うん」
「ねぇってば、風邪、うつるわよ」
「……うん」
「もう……」
「……うん」
何をしに来たんだろうコイツは。
「ねぇ、ちょっと。私のトコなんか来てていいの? 」
「……んー……大丈夫。打ち上げも撤収もおわった……」
随分疲れているようだ。なんか、いつもと感じが違って幼い感じにキュンときた……けど重い。
「……他に、行かなきゃいけないところがあるんじゃないの? 」
……たとえば、彼女のトコとか、彼女のトコとか、彼女のトコとか!
心の中で叫びながら、そっと、おずおずと髪に触れた。悪い事をしている気分だ。
撫でるように梳くと、思ったより凄く柔らかい。
イェスタは、ふうっ、と気持ちよさそうに溜息をついた。
「……ンなの、別に……てめぇのトコぐらいしか、ねぇよ……」
──えーと? ……なんだそりゃ。
自分の中の制御が。ギアがシフトチェンジしてしまった。
ガッ、と今まで撫でていた髪を引っ掴んで顔を覗き込む。
「……でっ! 痛ぇ、バカ女何すんだこの……!」
「聞き捨てならないわね。 アンタの彼女、どうすんのよ! 」
私が掴んで引っ張ったところを撫でながらイェスタがこっちを向いた。どうやらやっと目が覚めたらしい。
「はぁ? なに言ってるんだ……」
「だから! 」
そこまで激昂しておいて、私は言い淀んだ。
「……えっと。昨日の舞台の相手って」
「あ? 舞台? ああ。演武の話か」
「あんたと組み手してたのって……」
「イザルティのことか。アイツがどうかしたのか」
──えーと。もしかして、私は物凄い勘違いをしてたり、してますか?
「……その人って、アンタの彼女とかじゃ、ないの? 」
キョトン、とした顔で、イェスタは私を10秒ほど見つめた。
「……はぁ? 」
あああああ!?
ヤバイ。
なんか、間違ったようだ!
慌てて布団に潜り込んで動揺を隠そうとした。
顔をマクラに押しつけてミノムシみたいに縮こまる。
「なんで、そんな話になるんだ」
呆れ声で、かぶってた布団をむしり取られた。
ぎゃー! 私はさっきまで熱があったんだぞ! 病人に乱暴しないで下さい!
「オラ、バカ女。顔を見せやがれ! 」
「いやー! やだぁ! やめてよもう! 」
──なんか、イェスタが楽しそうだ。 ヒィ!
騒ぎが階下まで届いたらしい。
「ハルカ様! ……っ、イェスタ様! なにをなさっておいでですかおやめ下さい! 」
テルセラが部屋に飛び込んできた。
私からイェスタを引きはがしにかかる。
「っせぇ、コイツ全然自覚してねえから、いっぺん実力行使で思い知らせてやる! 」
──ふぇえええ! なに? なんなの?
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