第4話 ズタズタに打ちのめされた気分

 ズタズタに打ちのめされた気分だった。


 自分を見てもらえない事は最初から知ってた。

 だけど、実際それを突き付けられるとこんなにもキツイのか。


 多分だけど……私はイェスタの事が好きだ。


 めっちゃ口は悪いけど、こっちの世界に突然放り込まれて頭ん中グルグルになってる私を、見捨てずに色々と世話を焼いてくれた。まぁ、バイトとしての仕事でもあったんだろうけど、何かというと声をかけてくれて。毎日のように色々なところに連れて行ってくれたり。

 元の世界でもさ、キャッキャウフフするような彼氏なんか、いない歴イコール年齢ってなレベルの私からすると、あれって、いわゆるデート状態だったんだよね。


 なんか、勘違いしそうになってたよ。……がっかりだ。


 そうだ。

 異世界人の私なんか、この世界では異物以外のなにものでもないし、必要のない存在なんだよね。

 要らないものが、こんなところで何をしているんだろ。


 元の世界に帰る事も出来ず……ここで必要ともされず。

 隣に居ることは可能だとしても、イェスタの追いかける視線の先に自分が居るなんて、有り得ないんだ。なにせ、異世界人とは結婚する事もできないらしいし、彼もこれで意外とイイとこの育ちみたいだから、こんな超高く見積もっても十人並みの容姿の異界人なんか、望まれたとしても相手にするわけがない。ハナから対象外だ。

 彼の誘いに平気な振りをしてきたけれど、日を追うごとにその仮面は剥がれて取り繕うのが下手になっていく自分。


 ――わかっていたのに。

 膝の上で。ギュッと手を握りしめた。


 そうだよね。イェスタに頼ってちゃダメだよね。

 うん。ちょっと自分、冷静になろう。


 この前。別れ際。イェスタが突然 黙った。

 不思議に思っていると、急に手を握られて、聞いた事のない優しい声で「ハルカに、会って欲しい人が居る」と告げられたのだ。

 頭が真っ白になった。


 まさか。

 「ええと……会って欲しいって。誰? 」

 「えーっと。それは、まだ正式決定じゃないから誰とかまでは言えねぇし……」

 困ったように語尾を濁す。

 「ナニソレ」

 「まぁ、今度紹介するから」


 そんなやり取りがあったのを思いだした。


 そういや、イェスタは私の手を握りたがる。異界に飛ばされた当初は心細かったから、そんなちょっとしたことが、とても嬉しかったりしたわけだけども……そういう行動も勘違いの原因だよねぇ。

 「天然タラシ」ってやつか。

 万が一にもイェスタが私の事を好きだとか告白するなら、普通は直球で言うだろうし。突然「両親に会って欲しい」とかそんな超展開になんか、ならないだろう。


 そういう流れじゃなくて、つまり「彼女さんとゴールインする予定だから会わせたい、祝ってくれ」と、そういうアレですかね。

 あー。もう少しだけ、夢を見ていたかったかもなぁ。


 きっと、あの舞踊で一緒に舞った女性が、イェスタの相手なんだ。

 妙な確信があった。




 舞台の上では、知らない言語でゲストからの質問があったり、投げ技についての講釈がされたりして、客席から笑い声もあがっていたけど、全然耳に入らない。


 隣に座ってたテルセラさんが、そんな私に気が付いて「ハルカ様……大丈夫ですか? 」と、声をかけてくれた。

 心配をかけちゃいけない。

 「あ、ハイ。ごめんなさい大丈夫です……ちょっと、色々思い出しちゃっただけです」

 慌てて作り笑顔をした。

 「そうですか……このまま、帰りましょうか? 」

 「えと、いえ。せっかくたし最後まで観たいです」

 「……そうですか。まだ結構長いですから、お疲れでしたら遠慮なさらず言って下さい」

 「ありがとうございます……」


 テルセラさんは、暗い気持ちで俯いていた私の背をトントンと優しく叩いてくれた。

 響きの良い温かい声が染みるわぁ。ホント、イェスタとは大違いだよね。

 そんな事を考えてたら、痛いぐらいの視線を感じて。顔を上げたら舞台の上のイェスタと目が合った。


 ──なによ。

 アンタの彼女さん披露にショック受けてる、いたいけな乙女に対して文句でもあるのか?

 

 ジッと見つめると、ふいっと目を逸らされた。

 なんなんだ、バカ。


 ──人の気も知らないで。


 心の中で私はヤツを罵った。

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