【 第一幕②】
ちりん……ちりん……
私の髪を結いたリボンに付いている鈴が春風に吹かれて控えめに鳴っています。
「どんな先生が来るんだろうね?楽しみだよね~♪カッコいい人だと良いな〜」
少し前で歩きながら呟いている元気な娘。
幼馴染みの大亘 わたりちゃん。
高校2年生になる今日から新しい先生が私とわたりちゃんのクラスに赴任してくるのです。
どうやらどんな先生なのか気になっているようで…
「ねぇねぇ!すずは気にならないの?」
すずとは私の名前です。
鈴峯 すず。
この壱山市で古くから地主の家系としてそこそこ有名な「鈴峯家」の長女です。
ポニーテールに結いた髪を楽しげに揺らしながら、わたりちゃんが私に話しかけます。
「……私は別に……勉強の教え方が上手な人が良いかなって」
「んもう!!そんな事言わないで一緒に考えようよ~!」
友達や先生を含めて周りの環境が変わっていっても生まれもって決められた定めは変えられないのだと、ふと考えてしまいます。
予め敷かれたレールを辿るように。
抗っても最終的に辿り着く場所は同じなのだと。
そんな事を考えていると、わたりちゃんから不満の声が上がって我に返ります。
「すず?聞いてる?」
「え?」
「んもう、朝から惚けてるの?」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと聞いてるから…」
「本当かなぁ? でさ、新しい先生がカッコいい人かって話なんだけど…」
学校に行けば分かる事なのに気になって仕方がない様子なので、少し意地悪くこう聞いてみました。
「じゃあもしもカッコ良くなかったらどうするの…?」
わたりちゃんは意表を付かれた顔をした後、少し考える素振りをして…
「そ、それはねぇ、またウチの勉強怠慢に拍車が掛かるだけだから…」
「頭良くなくても生きていけるし!!」
開き直りつつ何故かグッと拳を握り込んで言い放つ姿に、私は思わず笑ってしまった。
「ふふっ♪」
「あ~!!笑うなんて酷いよすず!」
一瞬だけムクれて、直後に冷静になったような声が返ってきました。
「すず、やっと笑ってくれたね」
「え?」
「最近たまに表情が暗い時があるから心配になるんだよ、大丈夫なの?」
冷静に、それでいて本当に心配している表情で私の顔を覗き込んでくる。
わたりちゃんは昔から思っている事は言う性分です。
私が思っている事を口にするのが苦手なのも影響しているのかもしれません。
「……大丈夫だよ、本当に」
私自身の問題なのに、自分の事のように心配してくれる事に感謝しながら言葉を返しました。
「家の事で何かあったら遠慮なく言うんだよ?」
「うん、ありがとう。」
こんな幼馴染みが居て私は幸せです。
わたりちゃんが居なかったらどういう私生活になっていたのか、怖くて想像も出来ません。
「さ!!早く行かないと遅刻しちゃうよ!」
「走らなくても全然間に合うんじゃ…」
「いいじゃんいいじゃん!早く早く!」
私の手を無邪気に引きながら走るその姿は楽しげに見えて、少し寂しそうに見えました。
桜舞う道の先に、学校の校門が見えてきました。
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