【 第一幕】

ジリリリリリリ!!!!!!


部屋中に鳴り響く目覚まし時計。

目を覚ましたいところではあるが、まだまだ寒さの残る春先

布団から出たくない衝動に襲われる。

しかし、このまま鳴らしっぱなしで近隣住民に迷惑をかけるわけにもいかないので布団から這い出る事にした。


鳴り続ける目覚まし時計を止め、グッと伸びをすると少しずつ目覚めてくる感覚がある。


布団から降り窓際に近付くとカーテンを両手で一気に開け放つ。

すると眩しい陽射しが差し込んでくる。


窓の外にはヒラヒラと舞う桜が見えていて、散歩している人や会社・学校に向かっていると思わしき人も心なしか嬉しそうに見える。

これが桜の魅力なのか、はたまた春という出会いと別れの季節がそう見えさせているのかはわからない。


ともあれ、今日から新しい生活が始まる。


「壱山高校…か」


今日から赴任する学校である。

数日前に壱山市に移住してきたばかりで右も左も分からず、高校の所在地を探すのに苦労したのは言うまでもない。


そもそも匿名扱いで赴任依頼するとか最近の教育機関は一体どうなっているのだろう。

何か理由があるのかもしれないとも考えたが、斯く言う僕自身もこの壱山市に何か引っ掛かりのようなものを感じたので移住する事に決めたのである。


引っ掛かりの理由を探すため街を歩き回ってみたが何も感じず、特に手掛かりになる情報も掴めなかった。

たまたま分からなかっただけかもしれない、タイミングが悪かっただけかもしれない。


しかし僕にはこれは必然的な結果だと思えるだけの理由がある。


「記憶………無いんだから分かるも何も無いよな、本当に」


もしかしたら記憶が戻るかもしれないという淡い期待があったのだと思った。

当然ながら現実はそんなに甘くないという事か。



僕は考える事を止め、身支度をして学校へ向かった。

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