第25話 異変
家に帰ると、玄関にはねえちゃんの靴のみ。
いつも通り両親は帰っていないらしい。
なのに、居間からいい匂いが流れてくる。
何事だろう。
「あ、おかえりー」
ねえちゃんが居間から顔を出してくる。体にはなぜかエプロンを装備していた。
「ねえちゃん、どしたのその恰好」
僕が聞くと、ねえちゃんは目をぱちくりとさせて、それから少し顔を赤らめた。
「いやー、たまには女の子らしく料理でもしようと思ってさ」
どういう風の吹き回しだろう。
「なんかあったの?」
「いや、特にー何も?」
少し誤魔化すようにそう言って、ねえちゃんは居間へと戻って行く。
僕はそのあとを追いかける。
ねえちゃんは居間に戻ると、そのままキッチンの中へと入っていき、忙し気に料理の続きを始めた。
会話の続きをしたら、邪魔になってしまう。
もともと、料理が苦手ではない姉だ。夕食の中身を心配することもないだろう。
「それじゃあ、頑張って」
俺はそう言って部屋へと戻る。
夕食はできたら呼んでもらえるだろう。
部屋に戻って、自分の机の前にドスンと座る。
先ほどまで気絶して眠っていたせいか、眠気はそんなにない。
その代わり、頭がとてもぐるぐると回っていた。
頭の中を整理しながら、俺は明日の準備を始める。
着ていた制服をハンガーにかけ、部屋着に着替える。
鞄の中の授業道具を明日のものへと取り換える。
「蒼斗ー、ご飯出来たよー」
そのあと、今日の復習を少々しているとねえちゃんから声がかかった。
「わかったー」
僕はそう答えて、見ていた教科書に栞がわりにペンを挟む。
居間に入ると、机の上にはハンバーグにコーンスープ、ライス等々、夕食一式が並んでいた。しかも、僕の大好物ばかりだ。
「うわっ、ほんとどうしたんだよ?」
ねえちゃんに尋ねると、ねえちゃんはうーんとしばらく考えた後、思いついたというように言った。
「あ、そうだ! 蒼斗の入学祝! 高校の」
「そんな思いついたように言われてもなぁ」
僕がそうつぶやくと、ねえちゃんはまあまあと言って僕に席に座るよう促した。
「いただきます」
二人でそう言って手を合わせて、箸をとる。
ハンバーグは中に肉汁がたくさん入っていて、その肉汁がかけられたソースと絡み合って絶品だった。コーンスープも程よい塩気ととろみで、春先で少し寒い体をぽかぽかとあっためてくれる。
ゆったりとした夕食の時間が続く。
普通のご飯の時はカップ麺闘争の時と違い、ゆっくり食べる。
ちゃんとした料理は味わって食べなくてはならない。まあ、カップ麺を料理と認めてないわけではないが。
夕食の最後のデザートに、リンゴのコンポートまで出てくる。
ねえちゃんの本気度合いがうかがえて、何か裏があるのではと勘ぐってしまう。なにか、僕に話すことがあるのか……。
「で、ねえちゃん。本題は?」
僕がかまをかけると、ねえちゃんは一瞬たじろいだ。
それから、ふーっと深く息を吐きだすと笑った。
「あおくんも、もう子供じゃないってことかぁ」
あおくん、という僕の昔の呼び名を引っ張り出してくる。
僕は、その呼び方に気恥ずかしくなりながら再び問いかける。
「それで何かあったの?」
僕の再びの問いかけにねえちゃんは目を閉じて少し考えてから、答えた。
「お父さんとお母さんがね、別々に海外出張に行くことになったの。期間は2年以上だって」
僕の周囲が少しずつおかしくなり始めていた。
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