第2章 忌むべき力
第12話 登校
4月6日 四季砦高校通常授業初日
入学式も無事終わり、四季砦高校では今日から通常授業が始まる。
昨日寝過ごしてしまった俺は、台所に行って昨晩の洗い物を片付け、シャワーをする。そして、一人でいそいそと朝食を済ませる。
「いってきます」
時刻は朝6時。昨日の登校より1時間も早い。家族もまだ寝静まっているので、少し声を抑えての挨拶だ。
この時間に家を出発したのには二つ理由がある。
一つは、昨日のような遅刻をしないため。
もう一つは、あのきらきらたちと少しでもすれ違う確率を消すためだ。
30分ほどかけて、俺は校門前までやってくる。
普段は15分ほどで来れるが、この時間はちょうどいい電車がなかったので徒歩になってしまった。まあ、健康にもいいだろうし問題ないだろう。
学校に向けて何気なく歩いていると、昨日の桜の木が目に入る。俺は思わずそれに近づいてしまう。
それにしても立派な木だなぁ……。
「今日は随分と早いね」
突然頭上から声が聞こえる。
驚きはしたが、少し身構えてもいたので俺はすぐに返答することができた。
「遅刻したくなかったので」
上を向くとそこには、白銀の髪を携え、体を桜の木にもたげた朱里先輩がいた。
そのいかにも絵になるような描写に、俺は一瞬言葉を失う。
「そう。昨日忠告したのに遅刻したんだね」
少し残念そうに言う先輩の表情もまた可愛らしかった。
「ごめんなさい」
俺の口から素直に謝罪の言葉が出てくる。それと同時に、先輩の姿に違和感を覚える。昨日とどこかが、違う……。
「あ、目の色!」
俺は気づいた瞬間口に出してしまい、自分の口をぱっと覆う。
先輩の気に障るようなことを言ってしまっただろうか。
「ああ、これ?」
俺の心配をよそに先輩はあんまり気にした風もなく、むしろその瞳を俺に見やすくするように目にかかる髪の毛を耳の方へとずらした。
「黒い……」
俺はその色をもう一度確認して思わずつぶやく。
先輩の瞳が黒かった。あの透き通るような青色の瞳はそこにはなく、黒い瞳は朱里先輩の印象を少しだけ平凡にしていた。
「今日は公演もないし。コンタクトレンズなの」
その言葉を聞いて、俺は少しだけ幻滅する。あの美しい瞳がコンタクトレンズだったなんて。まがい物を見せられていた衝撃は計り知れなかった。同時に、自分が朱里先輩にどれだけ執着しているかを実感した。
「そう、なんですか……。あ、あんな綺麗な青色のコンタクトレンズ、あるんですね」
必死に言葉を絞り出す。
「青色……?」
朱里先輩はきょとんとしながら、俺の言葉を繰り返す。
「違うよ」
そして次の瞬間、理解したように笑う。
「コンタクトレンズはこの黒の方」
そして、木から飛び降りる。
今度は昨日とは違って、俺の隣に綺麗に着地した。
俺は朱里先輩のその言葉に、ほっとした。
嘘じゃなかったんだ。
その思いが俺を包み込む。
それと同時に一つの疑問が思い浮かぶ。
「なんで、本来の綺麗な目を隠すんですか?」
俺が尋ねると、朱里先輩は美しい微笑みを見せながら言った。
「君、面白い」
返答にはなっていなかったが、俺はその笑顔が見れたことがとても嬉しかった。
「理由はいつか、教える」
朱里先輩はそういうと、数歩学校の方に歩みを進めてから振り返る。
「学校一緒行こう?」
そして、こちらに手を伸ばしてくる。
「はい」
俺は、その手を反射的につかむ。
こうして俺は朱里先輩と学校に登校した。
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