第11話 夢

 一人家に残った俺は、自室でネットサーフィンに打ち込んでいた。

 これといってすることがない、ただの暇つぶしだ。


「演劇、か……」


 朱里先輩の影響か、俺の手は勝手に演劇のことについて調べてしまう。

 だが、ネット内で知れたのは演劇の専門用語や、現在公演されている演目、過去の人気作。そんなものだった。どこにも、あの舞台の魔法のような力は乗っていない。


 俺は、パソコンを閉じて、ベッドに横たわる。


「やっぱり、あの人が特別、なのかな」


 そして、ゆっくりと目を閉じる。


 頭の中で、部室での出来事が再生される。

 今になって、告白したことが恥ずかしくなってきた。

 赤くなる顔を枕にしずめ、少しでも冷やそうとする。


「先輩と……付き合う」


 口に出すと、頭がさらに沸騰するようだった。

 きっと、今顔を見たらタコのように真っ赤になっているに違いない。


 先輩とのこれからのことを、あれこれ妄想する。

 俺には妄想する権利がある筈だ。

 だって告白もしたし、返事ももらった。

 あとは俺の覚悟だけなんだから。


 いろいろ妄想した挙句、急に眠気が襲ってくる。

 考えすぎて頭がオーバーヒートしたのかもしれない……

 俺はゆっくりと現実の意識を手放した。

 

 

 眠りにつくと、珍しく夢を見た。

 夢の中では、朱里先輩と俺はすでに付き合っていて、二人で幸せな生活を送っていた。けれど、俺はその幸せな生活の裏で様々な不幸な人間が出現することを知っていた。

 俺と先輩は、幸せになっちゃいけない。


 俺は、夢の中で一つの決心をする。

 先輩か俺が、ここからいなくならないといけない。


 俺は自ら屋上から飛び降りることを決める。

 しかし、飛び降りる寸前に先輩に止められる。

 俺は必死に彼女に説明する。

『僕たちは幸せになっちゃいけないんだ』と。

 すると、先輩は自分が飛び降りるといって聞かない。

 俺たちはもつれあった挙句、二人で屋上から転落する。


 何度も何度も、俺たちはそれを繰り返す。

 死んだらまた最初から。

 まるで、ゲームのように……。

 体がどんどんと思うように動かなくなっていった。


『限界だ』


 その思いが強くなり、夢の中での体が動きを止めた時、俺は現実へと帰還する。


 目覚めると、部屋に朝日がこうこうと照り付けていた。

 どうやら、夕食も何もかも寝過ごしてしまったらしい。

 後で、ねえちゃんに怒られるな、と思いながら、俺はゆっくりと自分のベッドから体を起こした。

 夢の影響か、頬を涙が伝う。


 こうして俺は4月6日の朝を迎えた。

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