第7話 四季砦高校演劇部

「そんなに驚かないでよー」


 翡翠と叫び声をあげた直後、慌てたような声が後ろから聞こえる。


「驚かせる紫乃が悪い」


 そう言いながら目の前であの先輩が起き上がる。


「あっ」


 俺は思わずその姿に声をあげてしまう。とても、美しい。


「えっ、生徒会長……?」


 先輩の美しさに夢見心地な俺の隣で翡翠が声を上げる。

 翡翠の声につられて振り返ると、そこには入学式で挨拶していた生徒会長の仲田さんがいた。


「やあ、新入生のお二人さん。三日月翡翠みかづきひすい君と、神崎蒼斗かんざきあおと君」


「え、なんで俺たちの名前を?」


 翡翠がすかさず尋ねる。


「そりゃあ、僕は生徒会長だからね。四季砦学園の生徒全員の顔と名前を覚えているよ」


「まじすか!? 初等部から高等部まであるこの学園全員を?」


「まあ、記憶力には自信あるからね」


 仲田さんは小さめのフレームの眼鏡をくいっとあげて言う。ちなみに言うと、仲田さんはいかにも生徒会長というような真面目な風貌だ。眼鏡の真面目系女子と評するのがちょうどよいだろうか。眼鏡に、髪型は頭のてっぺんでお団子に一つにまとめている。


「すごいっすね」


 翡翠は素直に感心しているらしく、何度もうなずいている。ああ、翡翠はこういうタイプが好きなのかなぁ、などと俺はぼんやりと思う。


「紫乃、私のお客さんでしょ。取らないで」


 後ろであの先輩の少し拗ねたような声が聞こえる。

 俺は慌てて振り返ると、先輩は起き上がってベッドの上に置いてあった大きなぬいぐるみを抱きしめていた。上目遣いでこっちを見てくる。


「なんの用?」


 俺は再び、その美しさにあてられ、何もしゃべれなくなる。


「いやー、こいつが演劇部に興味があるって言うもんでして、連れてきたんすよ」


 こういう時、誰に対しても基本物怖じしない翡翠はありがたい。無言の悲しい空気が広がるのを防いでくれる。


「そっか、そっか。とっちゃってごめんね、朱里」


 仲田さんは、うんうんとうなづいて、ぬいぐるみを抱きしめたままの朱里に近づく。そして、その頭をなでた。


「紫乃、子供扱いしないで」


 むすっとした様子のあの先輩こと、朱里先輩は更にぎゅっとぬいぐるみを抱きしめた。でも、なでられるのはまんざらでもないらしく、手を払いのけようとしたりはしなかった。その様子は美しいというより、可愛い……。


「ごめんっ」


 仲田さんが片目をつむりながら、可愛らしく謝る。すると、朱里先輩は小さく溜め息をついて、立ち上がった。


「演劇部の活動について、説明する。こっち来て」


 そう言って、部室内の奥の部屋へと入っていく。少し怪しげな奥の部屋。

 俺と翡翠は顔を見合わせる。ついて行っていいものか……。


「さあ、行くよ」


 結局俺と翡翠は、仲田さんに押されるようにして、奥の部屋へと歩き出した。

 

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