第6話 再会
「で、どうするよ? 見学行く?」
翡翠は一通り俺をからかった後そう言う。
「うーん、どうしようかな……」
「お前、この期に及んで恥ずかしがってるんじゃないだろうな」
俺が悩んでいると、翡翠が俺を小突きながら言う。
「こういうのは、ぱぱーっといっちゃったほうがいいんだよ」
翡翠は俺の背中を体育館の外に向けてぐいぐいと押す。
「わかったよ、いくって!」
俺は強引な翡翠をなだめるべく言う。この調子じゃ、演劇部の部室に変なテンションで突入しかねない。
「よし、そうと決まれば善は急げだ! 早くいくぞ、蒼斗」
テンション高めに言う翡翠。俺はそんな様子に少し違和感を覚える。
「お前、やけにテンション高いな」
翡翠はその俺の言葉に、にやにやと笑う。
「友達の恋路を応援したいだけさ!」
「馬鹿、恋路とかじゃねぇよ」
俺は少し声を荒げて言う。あの先輩と、恋とかそういうの、俺は、まだ……。
「まだ、って思ってる顔してるぞ」
にやにやをさらに深くした翡翠が言ってくる。
くそっ、こいつは人の考えてることを的確にあててきやがる。全く、親友とは怖いものだ。
「まあ、恋路とかじゃなくてもさ」
翡翠が少し真剣な目になった。
「蒼斗、中学時代とかずっと無気力な感じだったからさ。親友がそうやってなにかに自分から興味を持って、嬉しいわけだよ。俺は」
「俺って、中学の時そんなに無気力だったか?」
「そりゃな。毎日、地獄だーって顔をしながら生きてたぜ」
そうだろうか、俺は過去の記憶を頭の中で巡らす。苦痛だった覚えはある。だって、周囲があまりにも輝いていて、俺は何もできない異物だったから。
「まあ、お互い高校デビューと行こうじゃないか」
「翡翠は、多分中学そのまんまだろ?」
俺が笑いながら言うと、翡翠はどうだろうなーと、お得意のポーカーフェイスで本心を隠す。こいつには、何年付き合ってもつかめない部分がある。
「さあ、ついたぞ」
翡翠が足を止めたのは、校舎の端の端にある演劇部の部室される場所だった。扉の奥からは光が漏れておらず、真っ暗だった。
「まだ、誰もいないんじゃないか?」
俺がその様子を見て言うと、翡翠はにやりと笑って部室の扉に手をかけた。
「失礼しまーす」
ギィ、という音とともに扉が開く。
そこには、一言で言うと、変わった景色が広がっていた。
部室の中央に頓挫する大きな天蓋付きのベッド。その中央には、美しい白銀の髪を携えた、お姫様のような少女が横たわっていた。
俺と翡翠はその美しさに息を飲む。
俺はともかく、さすがに翡翠でもこの状況には思考停止してしまったらしい。二人で一言も発さず、入り口に立ちすくんでいると、後ろから声が聞こえた。
「姫の眠りを妨げるやつは、ダレダ……」
恐ろしい声色、咄嗟に想像したのは幽霊。俺と翡翠は、叫び声をあげた。
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