第5話 親友
「これで、新入生歓迎会を終わります。新入生の皆さん。放課後は各自で興味のある部活の見学を行ってください」
その言葉とともに、周囲にざわめきが訪れる。
新入生は、同じ中学の出身者同志などで固まり始めた。
「今朝は遅かったな、どうしたんだよ」
かくいう俺のもとにも、一人の同中出身者がやってくる。
「
俺は、少し苦々しげに彼に向けて答える。彼、三日月翡翠は、同じ中学出身の俺の数少ない親友と呼べる相手だ。こげ茶色の髪にとても整った顔のコイツは、よく女子に告白されるが、一度も付き合っているのを見たことない。奇特な奴だ。
「そうか。そういえば、部活どうするか決めたか?」
自分の興味のないことは深く追及しないのが、翡翠の特徴だ。どうやら、俺の遅刻の件は翡翠の興味をたいしてひかなかったらしい。
「俺はまた吹奏楽やろうと思ってるんだ」
「そうか」
翡翠は、小さい頃から音楽に親しんでいて、大抵の楽器を演奏することが出来る。それもモテる要因なのだろう。悔しいが、俺は何をやっても翡翠にかなわないので言ってもしょうがない。
「お前は?」
翡翠が尋ねてくる。
「まあ、なんだろうな」
俺が演劇部に興味があるなどと言ったら馬鹿にされそうなので、適当に誤魔化す。
その時、あの少女こと、あの先輩がスーッと俺たちの目の前を通った。すでに最初の時と同じ、帽子とマフラーを装備している。
俺は思わず、彼女に見とれてしまう。ふーっと、翡翠から彼女の方へと意識が向く。
「演劇部か?」
「へっ!?」
唐突な翡翠の言葉に、俺は不意をつかれた。
「長年、お前と一緒にいるからわかるよ。お前、あの人にすげー興味持ってる」
翡翠はそう言いながら、うんうんとうなずく。
「隠さないでよし」
こういう時の翡翠にはかなわない。俺は観念して白状する。
「そうだよ、演劇部に興味あるんだよ。目立つの嫌いな俺が笑っちゃうだろ?」
自虐気味に言うと、翡翠はきょとんとして、なんで?と言ってきた。
「親友が新しいことに興味を持ったのを否定する意味、とは?」
「そっか……。ありがとな」
当たり前のことのように、そう言ってくれる翡翠に俺はちょっと感動する。
こんないい友達を持ってよかった。
「でさお前、あの先輩に惚れたの?」
「なっ」
ただコイツは、最終的にはからかうことを忘れないやつなのだった。
これさえなければ、コイツは最高の親友なのに。
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