第4話 歓迎会

「それでは、10時30分になりましたので、新入生歓迎会を開始させていただきます」


 そのアナウンスとともに窓という窓のカーテンが作動し、体育館の中が暗闇に包まれる。

 周囲の同級生たちが、何が起こるんだろうとざわざわしているのを感じる。


「それではまず、本校演劇部による公演です。皆さん最後までお楽しみください」


 演劇部。

 一番、興味がない部活が来たな。

 俺は、今朝の少女のことを思いながら、ぼんやりと考えた。

 だって俺は、何よりも注目されることが嫌いなのだ。人前に立って演じるなどもっての他だ。

 何があっても、その部活には入らないだろう。


 ブザーとともに、ゆっくりとステージの幕が開いていく。


 ステージ上に立っていたのは、”あの少女”だった。

 圧倒的な存在感を放つ彼女は、今朝の少女とはまるで別人のよう。

 体育館中の視線が、一人舞台に立つ彼女に集まる。しかし、彼女はその重圧をものともせず、その美しい体から、喉から言葉を紡ぎだした。


「幸せに対する欲は限りない」


 その言葉から始まる物語は、不幸な星の下に生まれたお姫さまと、それを助けようとする平民の男の物語だった。

 舞台には彼女一人しかたっていないのに、まるでたくさんの登場人物がそこにいるかのように見える。

 お姫様である彼女と恋仲である平民の男、姫の母親と父親である王妃と王、兄弟である王子や姫たち、挙句の果てには王宮の飼い犬まで、俺の目には鮮明に映った。

 空の色も、見えないはずの城の景色も、お姫様がいつくしむ花も、彼女が飲むティーカップもないはずのものがすべて、見える。

 それはまるで魔法みたいで、俺はただただ感激した。


「私は幸せでした。だからこそ今の幸せなまま逝きたいのです。皆さん、ありがとうございました」


 グシャッ


 言葉とともに、真っ暗になった舞台に響く音。

 その音ともに、舞台は終わりを告げた。

 周囲では、涙を流す同級生も多数だった。かくいう俺の頬にも、うっすらと涙が流れてしまっている。


「ありがとうございました」


 舞台が再び明るくなり、あの少女が舞台上で礼をした。いわゆる、カーテンコールというやつだろうか。改めて見るとその露出の高い衣装に俺の心は揺さぶられる。だって、今朝マフラーや帽子で隠されいた部分が惜しげもなくさらされているのだ。男として、何も思わないはずがない。


「演劇部では、様々な場所での公演活動を行っています。舞台に立ったことがない人でも大歓迎ですし、音響、照明、小道具などの裏方も募集しています。どうか、入部のご検討をください」


 アナウンスでそう流れると、あの少女は再び一礼し、舞台上から去った。

 彼女が舞台上からいなくなると、再び体育館の中の空気が変わる。それを感じて、ああ、俺たちは圧倒されていたんだな、と認識してしまう。


 あんなすごいものは、はじめて見た。


「演劇部か……」


 俺は静かにつぶやく。なにがあっても入らないという前言は撤回しなくてはならないかもしれない。

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