第3話 入学式

 新入生入場のための音楽が流れる。

 俺たちは、流れる曲と共にぞろぞろと体育館へと入場した。

 保護者や先輩方、教員たちの視線が俺たちへと容赦なく注がれて、非常に落ち着かない。

 俺は出来るだけ目の前の女子生徒と距離を開けないように、目立たないように最善の注意を払って動く。大人数での移動のおかげか、さっきの同級生たちから受けた視線よりも軽い、が、俺にとってきついことには変わりない。


「これから、四季砦学園高等部入学式を開式します」


 アナウンスとともに、体育館中に少し緊張した雰囲気が流れる。

 厳粛な空気で式は滞りなく進んでいった。新入生が一人一人呼ばれ返事をする、という部分では緊張したが、なんとか問題なくこなす。


 プログラムは進み、一番暇そうな演目へと移行していった。いわゆる、代表挨拶ってやつだ。


「学園長式辞」


 新入生たちの空気が一瞬重くなる。校長、学園長、そういう人のスピーチは長くてつまらなくなる傾向があるからしょうがない。


 学園長、と聞いて俺はそこそこ歳の言った男の人を想像したのだが、ステージ上に登場したのは、意外にもかなり若く、美しいと分類されるような女の人だった。学園長の代理か何かかな? 俺がそう思っていると、彼女が静かに口を開く。


「四季砦学園学園長、桃井美佐子《ももいみさこ》です」 


 その言葉を聞いて、俺はちょっと自分を呪いたくなる。

 どうやら、彼女が学園長らしい。自分の入学する学園の長も知らないなんて、どうなってるんだ俺は。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」


 桃井学園長は、笑みをたたえながら俺たちを見下ろしている。思わず、溜め息が漏れてしまいそうなほど美しいその微笑みに、俺を含めた生徒の視線はくぎ付けになってしまう。


「わが学園では、部活動に積極的に取り組んでいます。皆さんもぜひ、部活への加入をお願いします。入学式後の歓迎会では部活動紹介を行いますので、気になるクラブを見つけてみてください。新入生の皆さんの四季砦学園での活躍を祈っています」


 意外にも短いスピーチと綺麗なお辞儀とともに学園長は去って行った。




「これで、四季砦学園高等部入学式を終了いたします」


 その後のプログラムも無事進行し、入学式は終わりを告げる。

 途中、生徒会長の仲田さん、という人の挨拶の時、何度か目線があったような気がした。俺の勘違いだったらいいのだが、遅刻のせいで目をつけられたのではないことをただただ祈るばかりだ。


「休憩の後、続いて歓迎会を行います。10時30分までに自分の席にお集まりください」


 その言葉とともに、体育館内に人の動きだす様々な音が響く。

 周囲の空気が一気に軽くなった。


 俺は、ふーっと長く息を吐きだし、緊張で凝り固まった体をほぐす。どうも、注目されるのは嫌いだ。

 歓迎会になれば、視線も新入生の俺らにだけ向かなくなるだろう。

 我慢、我慢、と俺が心の中で唱えていると、ふと今朝の少女のことを思いだす。

 周囲を見回してみるが、少女の姿はない。点呼の時、新入生の中にはいなかったから、先輩であるはずだ。しかし、彼女のあの目立つ姿は在校生の中のどこにもなかった。

 

 俺は結局、休憩時間中に彼女を見つけることは出来なかった。


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