第2話 変わった人

 俺が慌てて校内へと駆け込むと、一人の女性教諭が下駄箱近くにいた。

 時計をちらちら見ながら落ち着かない様子の彼女は、俺を見るとぱっと顔を輝かせてこちらへと手招きをしてくる。


「神崎君ね! 間に合ってよかった」


「す、すみません……」

 

 俺は上がった息を必死に整えながら彼女の言葉に答える。

 彼女は俺が落ち着くまで少しだけ待ってくれてから言った。


「体育館まで案内するわ。ついてきて」


 俺の前を歩き始める。俺は彼女の後を追った。


「それにしても、入学初日からHRに遅刻するなんて、いい度胸じゃない?」


 俺が入学式に間に合いそうだとほっとしたのか、彼女は少しからかうような口調で言った。俺はそんな彼女に返す言葉もなく、ただただ事実で返した。


「すみません、ちょっと変わった人にあってしまって……」


 あの少女のことを変わった人と形容するのは少し違うような気もしたが、これで間違っていないはずだ。


「なに、不審者? 怖いわね」


 変わった人、という言葉に彼女は顔をしかめる。


「不審者とも違うんですけど……」


 慌てて訂正しようとするが、言葉が続かない。彼女のことをなんて説明したら、いいんだろう。そこで俺は、彼女がこの学園の制服を着ていたことを思い出す。


「多分、この学園の生徒だと思います」


 俺の言葉を聞いて、彼女はぴたりと止まった。


「生徒? ……じゃあ、あの子に会ったのかな」


 つぶやくように言う彼女がなぜかとても印象に残る。

 あの子って?、と俺が聞こうとしたとき、体育館前の廊下へと到着する。そこには、俺と同じ、そして先ほど俺がよけたきらきらとした存在たちがずらりと並んでいた。そのどこか異様な様子に、少し寒気がする。


「ここよ、神崎君」


 入学式ではクラス順に入場するらしい。二組の俺は、5クラスあるクラスの中で中央より少し前あたりに案内された。俺は静かにできるだけ何事もないような顔で、きらきらたちの中へと並んだ。クラスメートたちの目線が少し痛い。


「新入生入場」


 体育館の中からのアナウンスともに、一斉に前へ進みだす俺たち生徒。


 入学式が、始まる。

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