平等
ヤケノ
平等
世界が平等になった。
そうなる前まで、この世界には一人の巨人が暮らしていた。
巨人はこの世界にただ一人しかいない。
巨人はこの世界で何百年、何千年間もただ一人だった。体の大きさに合わせて寿命もとてつもなく長かった。
それでも彼はその孤独も含めてすべてを受け入れていた。
彼は手のひらに乗るほど小さな、普通サイズの人間たちを殺して食べる様なことはせず、できるだけ彼らの社会を邪魔しないように静かに生きて来た。
移動する時も踏み潰してしまわないように注意して。
またある時は町を壊さぬように、大きくまたいで歩くようにしていた。
そして、その日が来た。
この世界の人間は皆平等になった。
つまり、世界の人間の大きさが同じになってしまったのだ。
山のように大きかった巨人は、普通の人間と同じ大きさに変わってしまった。
普通の人間たちは、彼らが信仰する神の奇跡だと言った。
元巨人だった彼は、人間たちに自分が受け入れてもらえると思った。友人になれると信じた。
しかし、そうはならなかった。
彼が巨人だった時のことをすべての人間が覚えていた。
彼の影が見えただけで恐怖を感じた。
ただ生きているだけで迷惑だったと人間たちは彼を突き放した。
弱者だった自分たちには復讐する正当な権利があると、彼を追いかけまわし、皆が石を投げつけた。
受け入れてもらえず、彼は涙した。
命からがら逃げ出して、外の世界をさまよい歩いた。
巨人だった頃よりも、孤独は彼の心を深く傷つけた。
だいぶ歩いたつもりになっていたけれど、彼はほとんど移動していないことに気付いた。
町の明かりがそこから見える。
もう彼に大きかった体はない。一歩で川を渡り、谷を越えることはできない。
彼はよく知らない神に、向かって叫んだ。
人間たちは何も奪われていない。それなのに、自分は大きな体を奪われ、力を奪われ、なにも得るものが無かった。
こんなの全く平等じゃないじゃないか。
そんな彼の叫びを聞いていたのか、森の方から一人の人間が近づいてきた。
その人は町の人間とは違って、巨人だった彼を拒絶しなかった。
巨人はその人に尋ねた。
なぜ自分の話を聞いてくれるのか。なぜ君は人間が暮らす街ではなく、何も無い森にいたのか。
その人は答えた。
たくさんの大きな人間がいる中で、あなただけは私たちに嫌がらせをしなかったからだと。
巨人は知らなかった。
彼の足元には人間たちだけではなく、小さな小人たちが住んでいたことを。
小人たちの数は人間より多くとも、力が弱くて寿命も短く、人間に迫害されていたことを。
小人たちからすれば自分たち以上に大きな人間は、すべてが大きな人間だった。
森の中から、元小人だった人間たちが次々と現れた。
孤独だった元巨人の彼には、失ったものよりも価値のあるたくさんの友人が与えられた。
人間の世界は平等になった。
持つ者は奪われて、持たないものは与えられる。
では、はじめから人間だった者たちは、これから小人たちに…………。
平等 ヤケノ @yakeno
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