第8話 庭園



 庭園の奥に行くと、女がいた。


「私は神様などではありませんよ」


 聖域の主は自分の存在を否定したようだった。


「ただの少しすごい人間です。ちょっとばかり人より凄いことができるからといって人を神様にするなんて、人間は大げさなんですよ」


 自分のことを人間だというのに、人間のことを人間という女。


「ここも聖域などではなく、ただちょっとばかり普通の人がこれなくなってて、綺麗な庭園というだけなのに」

「にゃあっ!」


 ネコモドキは聖域の主を気に言ったようで、そいつの頭の上を満喫している。


「ずっとこんなところにいるんですか?」

「そうです、私はこの庭園の主ですから。離れるわけにはいきません」

「寂しいです」


 レミィの質問に答える女。

 だが幼い少女が思うほど、女は現状に不満を抱いていないようだった。


「そんなことないですよ。たまにこうして水で溺れた方が遊びに来てくれますし」

「そうですか、それは良かったです」

「でも、視線を合わせるどころか顔を向けてもらえないんですよね」

「それは失礼です」

「どうしてでしょう」


 ここに来た奴はおそらく自分が死んだと思ってるから、あるいはお前が神だからと言っても女には通じないだろう。


「お前は社や祠に足を向けて眠る趣味でもあるのか」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る