第5話 薄い壁
買い出しが終わって屋敷に帰ったら、案の定リンゴが一つ足りない話になった。
ネコモドキはなぜか、レミィやアスウェル以外の人間の前には出てこない。
わざわざ存在を説明してやるのも面倒なので、道にでも落としただろうということにしておいた。
夜。
アスウェルは屋敷の風呂からでると男の使用人たちから囲まれた。
「アスウェル、良いスポットを教えてやるよ」
重ねて考えるが、ここの使用人たちは客に対する距離感がおかしい。
男の使用人のまとめ役でもあるアレスの先導によってたどり着いたのは
レミィの私室の隣だった。
「つい最近気づいたんだ」
音をたてないように部屋に入って、アレスは壁に耳をつける。
盗聴だった。
「……」
部屋に入らず、同じ区画にある女の使用人のまとめ役であるレンの部屋へと向かおうとするアスウェルだったが、
「今回限りにするから、頼むよ」
言葉面からは想像できない必死そうな男連中に脱出を妨害された。
『今日は……。……だったんですよ』
壁の向こうから声が聞こえてくる。
『アスウェルさん買っちゃいました。』
部屋の隅に移動して人がいる方とは反対側の壁にもたれるアスウェルへ男連中の視線が集まる。
目を閉じて相手にしないことに決めた。
『あのまま放っておくわけにもいきませんでしたし。怪我の功名ですね』
「傷物……」「まさか」
耳も閉じたかった。
レミィは人形に話しかけでもしてるのか。隣室でほつれた部分の修理でもしているのかもしれない。
『一人だけじゃアスウェルさんが可愛そうです。他にも買ってあげようかな。でもお給料をあんまり使うわけにも……』
「一夫多妻……」「ヒモ」
同室のささやき声がうっとおしい。
『アスウェルさんの隣に別の人……。アスウェルさん、どんな人がいいいっていうかな。そもそも付きあってる人とかいるのかな。アスウェルさん、冷たいけど優しいし。他の人が放っておかないよね』
「公認の浮気……」「たらし」
部屋を出ようかと思った。
『男の人って胸が大きい方が好きなんだよね。どうやったら大きくなるのかな。もむ……とか? こんな感じ?』
「!」「!!」
赤面した男どもが壁から耳を離して悶えている。そろそろ潮時か。
自分が出る前に、
『なんて、アスウェルさん人形にしても意味ないよね』
最後にそんな種あかしがされた。
もっと早く言え。
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