第4話 人形



 今日も暇を持て余してたアスウェルの元に使用人達がやってきた。会話の内容は、街に買い出しに出るレミィの付き添いをしてほしいとのことだ。


 百歩譲って付き添いが必要なのは認めるところだが、それは客に頼むような内容ではない。


 結局断ることが出来なかったアスウェルは街中を歩いていた。

 買い込んだ荷物を分け合って歩いていく。

 並んで歩くと伸長差が際立つ。

 レミィはいつもの使用人服ではなく、白いワンピースを着ている頭の上にはいつものようにカチューシャが乗っている。

 そのレミィがこちらに向かって一言。


「アスウェルさん、帰る前にリンゴ食べちゃだめですよ」


 アスウェルは檸檬色の頭部へと視線をむける。


「にゃー」


 しゃくしゃく


「俺に喋る前に自分の頭に向かって注意しろ」

「私は食べたりしませんよ!」


 この娘は自分の頭上に乗ってるネコモドキが何をしてるのか、いつも意識にないようだ。


「あっ、アスウェルさん見てください。すごいです」


 頭の上の害獣を駆除する前に、レミィは発見した何かに目がけて突進していく。

小物屋のショーウィンドウだ。


「ぴったりです。むしろ本人です」


 飾り立てられた小物が整然と並べられているが、レミィお気に入りはそれらではなく別のものだった。


「この人形さんアスウェルさんそっくりです」


 ガラスの向こうの狭いスペースの四隅。

 無表情……、見る角度によっては不機嫌にも見えなくない表情をしている男の人形が置いてあった。


「私、人形はあんまり好きじゃないんですけど。この人形なら好きになれそうです」


 買い出しの手伝いを他の人間にまかせなくて良かったと思った。

 ここにいるのがアスウェルでなければ、屋敷の話の種にされているところだ。


「どれくらいの値段なのかな」


 安ければ買うつもりなのか、と思っているとウィンドウの中で人形がことりと倒れた。


「あ、アスウェルさんが倒れちゃいました」


 レミィの中であれはもうアスウェルの人形になっているらしい。

 ひとりでに何かの拍子に倒れたかと思えばいつの間にか入りこんでいたネコモドキがこづいたせいだったらしい。


「にゃにゃにゃにゃにゃーっ!」


 アスウェル人形は、日ごろの本人からの虐待のストレスを晴らすためのサンドバックにされた。



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