幕間「エルフ娘、女教師になる」

最近、エルフィンは貞操の危機を感じていた。

夫であり、君主であるシルバーが、とうとうプラチナと小作りを始めたのだ。

そこまでは普通だ。夫婦なら当たり前の出来事。

でも、シルバーは嫁が二人いる。

一人は貧相な身体ながら、美しい銀髪ロリ、プラチナ。

もう1人は、豚人間に酷い目に合わされた残念すぎる地雷物件にして、非処女なエルフィン。

プラチナが妊娠すれば、当然、次はエルフィンがベットの上でギシギシアンアンしないといけない。

そう、着替えしながら思った。よく考えたら、守るべき貞操が既にないから無問題な気がした。

最高権力者の側室の立場は、他人から見たら素晴らしいのかもしれないが……ハーレムやる男なんて、エルフ娘から見ても最低すぎる。

主に、現実のハーレムヒロインには上下関係というものがあり、自分がその中で最底辺の存在な時点で可笑しい。

平和なハーレムなんて、漫画やアニメの世界にしか無いんだなと思った。


「おーい、エルフィン~」


ちょうど部屋の扉を開けて、シルバーが入ってきた。

とんでもない絶世の美少年。エルフィンを助けてくれた恩人。

今、自分は着替えの最中だから、緑と白の縞々パンティーしか履いてなかった。


『着替えている最中のエルフ娘でござる』

『緑と白の縞々パンツが美しいお』

『良いオッパイだお、オッパイをイッパイおっぱいしたいお』


「シ、シルバー様?」


エルフィンの体に見惚れたのか、シルバーが行動を停止している。

エルフィンはとっても困る。猛烈に困った。

旦那様だから追い出す訳にも行かないし、ここで襲われても身分の低さ故に、抵抗は許されない。

最近は、シルバーが駆除したおかげで豚人間の数が激減したとはいえ、この地域から追放されたら、また白濁なエロゲーヒロイン生活である。

拉致られる前から、豚人間に酷い目に合わされている残念美少女人生は、もうご勘弁願いたい。


(ど、どうすれば良いのですか!?

美少年だから、まだマシですけどエッチィのはもう嫌なのです!

きっと、豚人間がやったみたいに、薄い本のようなエッチィ事をする気なのですか!?)


そうやってエルフィンがシルバーの様子を厳しく見守っていると――ショタ妖精の手で、扉が閉じた。

部屋の内側に、シルバーとエルフィンの二人が取り残されている。


『妖精さんwwwwwお前が部屋に出る前にwww扉を閉めてどうするwwwww』

『いや、これで良いんだお。

エルフ娘は妖精さんの嫁だお。無問題すぎるお』

『子作りはよ!』


危うい。この状況はとっても危うかった。

豚人間に拉致られて、陵辱された時の出来事を思い出してやばい。

オッパイをイッパイおっぱいされた記憶が蘇る。

ここでシルバーに襲われて、子供を妊娠したらプラチナが激怒するに違いない。

でも、シルバーを拒否って、その怒りを買うのも怖かった。


「シ、シルバー様……?

ま、まさか、私とも子作りするのですか……?

ま、待って欲しいのです。

プラチナが妊娠してからじゃないと、私が殺されてしまうのです!」


『とんでもないエロフ発言きたー!』

『いいぞ!押し倒すのだ!妖精さん!』


エルフィンは両手で、豊かな胸を隠して訴える。

守るべき貞操は既にないが、子供を産む順番は守らないと駄目だ。

肝心のシルバーの返答は――


「いや、ここに来たのは別の用件なんだ」


「あぅ?」


「エルフィン……俺に文字を教えて欲しい!」


エロい事はされずに済んだ。とっても安心できる展開だった。

でも、不思議とエルフィンの中で不満が燻っている。


(シルバー様はひょっとして……巨乳に全く興味がなかったり……?)


それはそれで、夫婦生活が酷い事になるかもしれないなぁーと、エルフィンは思った。

君主の寵愛を得られない側室って、なにそれひどい。



『エルフの裸は良い者だお』

『うむ……嫁が二人もいる時点で……羨しいな……」


「とりあえず、着替えを済ますので部屋の外で待って欲しいのですよ」


~~~~~~~~

エルフィンは、さっさと着替えを済ませて、シルバーを連れて図書室へとやってきた。

ここなら、教材はたっぷりある。

書く紙はないが、文字を覚えるなら紙は必要ない。

平っべったい大きな石を持ってきて、そこに白い石を使って、文字を書き込めば良い。

何度も何度も再利用できるから、経済的にお得で、かかるのは人件費くらいだ。


「まず、単語から覚えると楽なのです。

紙が勿体ないから、この石で練習すると、書き放題な上に無料になるのです」


エルフィンは、椅子に座り、横にいるシルバーと密着しながら教師の仕事をする。

絶世の美少年を相手に、勉強を教えるのはそれはそれで役得かもしれないなぁと思った。


『巨乳エルフ娘が女教師やってますよ?』

『実にけしからん、そのまま押し倒しなさい、妖精さん』


「な、なるほど、そ、その文字は、そういう事なのか、うん」


『勉強に集中しろよwww妖精さんwwww』

『エルフ娘のオッパイが凄すぎて、集中力が股間にいってるお……』


エルフィンは、シルバーの口調で分かってしまった。

エロい事を考えて、自分が言っている内容が、全く頭に入ってないなぁと。

一応、魅力的な異性としては認識されている所は良かったが、ここでうっかり押し倒されたら、それはそれで身の破滅だ。


(あぅ……。エッチィ事を避けながら勉強を教えるとか……なんて難易度が高い事を任せるのですか……)


若い男は野獣である。

シルバーなんて、夜になる度に、エルフィンの目の前でプラチナと子作りしまくっているエロ小僧である。

しかも、どこのエロゲーの主人公だと言いたくなるほどに絶倫だ。

プラチナの相手をした後に、もう一人や二人くらい女性を相手できそうだ。

妊娠し辛いエルフ族とはいえ、さすがに毎日のように相手してたら妊娠してしまうだろう。


「エ、エロフィン。

この文字は何て読むんだ?」


『おい、妖精さんwwwwww

エルフィンちゃんをエロ娘扱いすんなよwwwww』

『そりゃ初対面がエロゲーヒロインみたいな姿だったけどさwwww』


しかも、邪悪な邪神としか思えない言葉が、シルバーの周りに響いていて凄く怖い。

大勢の化物の声を聞きながら子作りやるプラチナとシルバーは、キチガイなのですー、とエルフィンは認識するしかない。

エロい事をされる前に、さっさとシルバーに文字を覚えてもらおうと、エルフィンが努力していると――図書室の扉が勢いよく開いた。


「シルバー様ー!

優れた家庭教師を揃えてきましたよー!」


黒いドレスを着た吸血姫プラチナだった。背後には2体の骸骨が立っている。

他の骸骨とは違って、黒いローブを着ていて賢そうだ。粗悪すぎる伊達メガネを頭に被っている。

プラチナは小さな胸を誇らしげに逸らして、背後にいる骸骨の紹介を始めた。


「見てください!僕の自慢の骸骨です!

一週間ほど、勉強させたからきっと役に立つような気がします!

さぁ!アナタ達!自己紹介をやりなさい!」


プラチナの言葉に、1匹の骸骨が反応して、メガネをクイックイッと片手で弄りながら――


「シルバー様。算数ならお任せを。一週間かけて――足し算をマスターしました。

算数マスターとお呼び下さい。

引き算は、今、勉強中です」


『おいこらwwwww馬鹿にされすぎだろwwww妖精さんwwww』

『ちょwwwおまwwww小学生一年生レベルの学力だと思われてるぞwwww』


算数マスターが黙ると、次はその隣の骸骨が自己紹介を開始した。

やはりメガネをクイッ!クイッ!と弄っていて個性の欠片もない。


「歴史の勉強ならお任せを、ここ10年ほどの内容をマスターしておりまする。

まだ、文字は読めません」


『足りないだろwwwたった10年分じゃwwww』

『歴史じゃなくて、ただの現代史だぁー!?』


「いや、歴史の授業はプラチナがいるから要らないだろ……そいつ」


 シルバーがツッコミをいれると動く骸骨は存在意義を否定されたことにショックを受け、骨の体を維持する気力を失って、バラバラになって崩れてしまった。

どうやら、ただの屍のようだ。

エルフィンは下手なコントを見ている気分になっている。


『おい妖精さんwwww骸骨さんに失礼だろwwww』

『歴史なんて、ベットの上でプラチナたんに教えてもらえば良いお』


エルフィンは、みんなに気づかれないように、外に出ようとした。

そろーり、そろーり。ゆっくり忍び足。

でも、胸が大きくてバランスが悪いし、ドレスの衣擦れの音がするし、恐らく気づかれてしまうだろうなぁと、エルフィンは悲しい気持ちになった。


『エルフ娘が逃げようとしているお』

『見逃してあげなさい、妖精さん。

正妻と側室の立場の違いできっと苦しんでいるだお……』


だが、やはりと言うべきか。


「エルフィン!アナタにも用があるから残って!」


「あぅ」


プラチナの怪力で、左手を引っ張られて、エルフィンは部屋の中へと戻されてしまった。

その過程で見てしまう。部屋の外。つまり通路に大勢の骸骨がズラリッと並んでいる。

最初から逃亡なんて不可能だった。私は籠の中の鳥しゃん。

エルフィンがそうやって諦めて悲劇のヒロインゴッコをしてストレス解消していると、プラチナが指を突きつけて話しかけてきた。


「エルフィンって暇そうだよね?」


「ひ、暇じゃないのです。

家事とか料理とか、シルバー様の文字の練習とかあるのですよ……」


「労働力はもっと有効活用すべきだと思うの」


「あぅ……?」


「シルバー様のおかげで、大量の人間の死体が手に入ったし、労働用に骸骨をもっともっと使うべきだと思うの。

軍事一辺倒なのは勿体無いしね」


エルフィンは嫌な予感がして、冷や汗を流した。

それは、豚人間に捕まって、徹底的に陵辱される前にも感じた、不安な未来への予感に似ていた。


「エルフィンに命じます!

この骸骨達の教師になりなさい!

頭が良い骸骨が増えれば、家事・農業・建築……ありとあらゆる事ができてお得だよね?

あと、シルバー様の事も、ついでに教育してね。

文字が読めないのは、さすがに支配者として学識が無いにも程があるし」


「あぅー!?」


『妖精さんはオマケ扱いかよwwwwww』

『教師がエロフで羨ましいお……』


とんでもない大役を貰ってしまった。

骸骨の教育に失敗したら、絶対、責任を取らされる。

読み書きを教えるという事は、行政組織を全て骸骨だけで構成する気満々だ。

働いてくれる部下も骸骨なんて怖い。

エルフィンのエルフ耳が、元気を失って下に垂れた。

そんな彼女の肩に、優しく触れるイケメンがいる。

10歳児にしか見えないシルバーだ。


「エロフィン、頑張れ」


『エルフ娘のオッパイばっかり見るなよwwww妖精さんwwww』

『別に押し倒しても構わないのだろう?byパミヤ・シロウ』

『あれは良いオッパイだ』


「あぅ……」


邪悪な邪神の声。その内容の数々。

きっと、近い将来、側室としての仕事をベットの上でやらされるのだろうなぁと、エルフィンは心の中で確信した。




【内政チート】「大変だっ!ダイナマイトを作るとっ!異世界で異端認定される!」

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