036「妖精さん、目安箱を設置する」
『妖精さん!目安箱を設置すれば良いお!』
『暴れん坊将軍の真似をしてチートする!』
目安箱。
江戸時代の名将軍、徳川吉宗の政策である。
庶民から、手紙の投函という形で、意見を広く募り、政治に反映させたと言われている。
匿名だと悪用し放題だから、もちろん、手紙に住所・氏名の必須。
この制度で、開発可能な土地を探して新田開発(田んぼの事)
江戸の火事対策などに着手して、とっても役に立ったそうな。
そんな事を、ネットの皆から言われたシルバーは、早速、ネット通販でステンレス製の大きな箱を購入。
早速、村の広場に設置しようとすると――近くの手押しポンプを使って、冷たい水を飲んでいた、胸がとっても大きい金髪エルフ娘が、シルバーに問いかけてきた。
「シ、シルバー様?
その箱は何なのですか?」
「目安箱だよ、エルフィン」
「目安箱っ……?
どこかで聞いたような……?」
「領民がやって欲しい事を、手紙に書いてもらって、この箱に投函して貰うんだ。
匿名で投函させれば、皆が俺を怖がっていても……誰でも意見を出せるだろう?」
『俺らと妖精さんの努力の結晶だお!』
『エルフィンたんのオッパイが今日も最高だお!プルンプルンですお!』
「ああ、なるほど……」
ショタ妖精の大雑把な説明に、エルフィンは両手を大きな胸に当てて、納得したようだ。
だが、すぐに疑問点に気がつき、彼女は首を傾げた。
「あれ……?」
「ん、どうした?」
「あ、あのシルバー様?
領民のほとんどは、文字が書けないのですよ?」
「あ」
『ちょwwwwおまwwwwww』
『妖精さんwww識字率ほぼ0%という事を、事前に調べろよwwww』
『すまんwww俺らも気づかんかったwwwww』
当然すぎる事実に、今更ながら気がついたシルバー。
文字の読み書きは、教育しないと身につかない。
そもそも、この地域で用いられている英語っぽい文字の読み書きは、シルバー本人も出来ていなかった。
『妖精さんwwwよく考えたらwwwwアンタwwww
この地域の文字知らんだろwwwww』
『なんで、目安箱なんか採用したwww』
『いや、妖精さんが文字を読めなくても、目安箱の中身を……プラチナに読ませれば、ワンチャンスだろう』
顔を真っ赤にして恥ずかしくなったショタ妖精。
一応、ネット通販で購入した箱を無駄にしたくないから、広場のど真ん中に置いた。
「せ、折角だし、読み書きできる連中の意見くらい聞いてみよう、うん」
『妖精さん、まず、アナタが読み書き習おうな!』
『うむ……妖精さんの無計画っぷりを愛らしく感じるのは何故だろうか……?』
気が動転したシルバーは、エルフィンの背後を見る。
店を開こうとする商人や、暇そうにしている領民たちが、広場へと集まりつつあった。
『目安箱……どうなるのだろうか?』
『エルフィンたんのオッパイは、今日も良いオッパイだお』
「おーい!お前らぁー!
新しい政策を発表するぞー!」
~~~~~
領民たちは、シルバーから説明を聞いた。
目安箱に、誰でも手紙をいれて、意見や、役人の不正などを訴えてくれと、大雑把に話した。
もちろん、投函者の名前を書く必要はない。匿名だ。
そうすると、すぐに恐怖に震えて、領民達が絶叫する。
「ひ、ひぃー!密告制度だぁー!」
「この世の終わりだべー!」
「おら達は、隣人すら信用できない社会になってしまうだぁー!」
「わぅんー!親が子供を売り、子供が親を売る世界が来る!?」
「にゃー!大変ですにゃー!何がよく分からないけど大変にゃー!」
「でも、オラ達、文字の読み書きができないから問題なかったべ!良かったべ!」
よくよく考えてみれば、目安箱に、誰でも投函できるという匿名性を与えれば、どうなるのか子供でも想像できる。
人間は悪口が大好き。悪評は簡単に流れる。
江戸時代の目安箱も、他人の悪口や、役に立たない意見がほとんどを占めた。
そう、ネットの皆からシルバーは教わった。それに――
「ああ、なるほど……目安箱って、監視網の役割があるのか……なにそれ怖い」
『投函された意見が、本当かどうか確かめるために、諜報機関が必要だぞ』
『うむ……スパイ組織を持っていない妖精さんだと……正直、持て余すだろうな……』
目安箱は、最高権力者に手紙を送れるシステム。
悪用すれば、とんでもない方法で悪用して他者を粛清できる。だからこそ、史実では住所・氏名が必須だった。
名君ならともかく、暗君がこんなものを匿名のネット掲示板状態で、運用したら、疑心暗鬼になって酷い事になるだろう。
そもそも、投函される手紙は、史実でも、ほとんど役に立たなかったと言われている。
そんなものに時間を費やすくらいなら、領主としての経験を積んだ方が堅実だ。そんな事実にシルバーは今更ながら気がついた。
「あ~、勿体ないな~。;
安かったけど、勿体ない。
この箱、何かに使えないかな?」
『役人の不正を自浄する効果があるから、残した方が良いと思うお』
『為政者は大変だな……民衆から理解を得るのは難しい。
本当の功労者は、噂にすら立たないというが……本当なのだな。
妖精さんの悪評ばっかり流れていて凄まじいぞ……』
シルバーは、目安箱の上にジャンプして載った。
領民達は、恐怖の独裁者が目の前にいる事を理解しつつも、目の前で経済活動を繰り広げる。
塩は、領主が独占販売しているから、ここでしか買えない。主婦のみなさんは、恐怖でビクンビクンしながら、塩を買い、急いで場から立ち去った。
やはり、支配者の椅子は、孤独だ。嫁はたくさん作れても、友達は作れない。
そうやって、シルバーが孤独に黄昏ていると――
『銀髪ロリ嫁キター!』
『プラチナたんっー!』
「シルバー様~、大変ですー!」
黒いドレスを着たプラチナが、広場の外側から走ってやってくる。後ろから、骸骨戦士の集団が、ノロノロと遅れて付いてくるから、領民達は迷惑そうだ。
可愛い嫁の存在に癒されたシルバーは、元気を取り戻して、彼女に問いかける。
「プラチナ?そんなに慌てて、どうしたんだ?」
「び、備中鍬のレンタル費用を払わない村が出たんです!
このままじゃ、僕の考えたレンタル制度が大崩壊して、大損なんです!困りました!」
「な、なんだってー!?」
シルバーの心臓が爆発しそうなくらい痛くなりそうだった。だが、亜人の体は、体内に流れる小型ロボットのおかげで、健康を保たれているから気のせいだった。
問題なのは備中鍬を借りパクされた事実。
もう、次がどういう展開になるのか、この世界に慣れつつあるシルバーには容易く想像できる。
ヤクザも国家も舐められたらおしまい。
自分を舐め腐った連中に、嫌がらせをするのが領主の仕事だ。
『許せないお……銀髪ロリを困らせるとか悪党だお……』
『恐らく、よほどの馬鹿か、大きな村なのだろうな……。
骸骨軍団を見て逆らう意志がある時点で、信じられない……』
「借りパクしたのは……どこの村だ?」
怒りを押し殺した、冷たいシルバーの声。
だが、次のプラチナの言葉で、熱した感情が冷やされてしまった。
「人間の村です!」
「え?
プラチナ、もう一度、復唱して」
「人間の村がっ!
備中鍬を借りたまま、永遠に返さない宣言をしたんです!」
「人間の……村?」
『可笑しいお……?』
『うむ……動画を見る限り……亜人はたくさんいたが、人間は一度も登場してないな……』
『これはどういう事だ……?な、なんか怖くなってきたぞっ……!』
シルバーは、この世界に来てから、人間(ホモ・サピエンス)は、一度も見ていない。
だから、可笑しかった。
(どういう事だっ……?
プラチナが言う人間って、誰の事なんだっ……?)
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目安箱 (ステンレス製) 二百円
(´・ω・`)江戸幕府の将軍。徳川吉宗の政策。
誰でも投函できて、中身を覗けるのは、鍵を持っている将軍だけだから、役人の不正を監視する安価な監視網としても運用できるお。(それを裏付けするための諜報機関も作らんとあかんけど)
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(´・ω・`)主人公が今まで購入したアイテムは、こっちに全部纏めた。
http://suliruku.futene.net/Z_saku_Syousetu/Tyouhen/Neltuto_tuuhan/Aitemu.html
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