037「妖精さんと、劣等人種絶滅政策」



シルバーは、とても嫌な予感がした。

だが、知らなかった、では済まされない。

プラチナ達が定義している『人間』とは何なのか?それを聞かないと、酷い事になると確信した。


「プラチナ……備中鍬をレンタルした村に……人間が住んでいる村ってあったか?」


「あれ?シルバー様は人間を知らないんですか?

ほら、3000匹……じゃなくて、3000人が住んでいる大規模な村があったじゃないですか。

気持ち悪い木がたくさんある村だと言ったら分かります?」


シルバーの脳裏に、鼠と人間を融合させたような生物が思い浮かぶ。

とっても横暴すぎる上に、村中に『ハムスターが木の実のように、生っている木』が生えていて、不気味な集落だ。

ファンタジーというより存在そのものがホラー。出来れば二度と行きたくない場所だ。


「あ、ああ。ハムスターみたいな外見している奴らか」


「そうです、そいつらが『人間』です。

僕達、亜人とは全く事なる生き物。

この前、シルバー様が殺したリザードマンや、ゴブリンの方が近いかもしれません」


『ちょおまwwwさりげなくwwwリザードマンやゴブリンを、亜人以外扱いしているぞwww』

『酷いお。でも、共存するのが大変な連中だから、プラチナたんがこう思うのも仕方ないお』

『リザードマンは、卵で増える生物だったな……。ここまで生態が違うと、同じ村にいるのも一苦労だぞ……

そもそも、哺乳類ですらない時点で、分かり合えるのだろうか?』


シルバーは信じたくなかった。

よりによって、ハムスターみたいな外見の連中が『人間扱い』されている事に。

しかも、相当うざったい口調で偉そうで、クズっぽいゲスの群れだ。

だから、シルバーは――現実を認めたくなくて、とんでもない事を口走った。


「なぁ、プラチナ。人間って呼ぶのは止めてくれないか?

あいつらは、ハムスターマンとか、鼠人間って呼んだ方がシックリくるぞ」


「そういえば、シルバー様は劣悪人種絶滅政策やってましたね?

確か人間も絶滅対象でしたっけ?」


今度はシルバーが驚いて黙り込んだ。

歴史上の人物ダーク・シルバーが、どんな奴なのか、未だに自分は調べていない――文字読めないし。

これでは、プラチナを騙すのも大変そうだ。

嘘を付いているのがばれたら、夫婦関係が破綻しかねない。

そんなのは、絶対に嫌だ。ひょっとしたらプラチナは許してくれるかもしれないが、そんなリスクは犯したくない。


『ちょwwwwwwなにその、アドルフ・ヒトラーみたいな奴wwww』

『うむ……妖精さんが騙っている人物は、とんでもない奴なのだな……』


シルバーは探偵のごとく考え込む。この場で誤魔化す方法を。

そして、簡単に思いつき、辛そうな顔で。


「……俺、そんな事やったけ?」  思い出せない振りをした。


「本で書かれている事が、間違っている可能性があるから、僕には過去のシルバー様の事は分かりません。

でも、世間一般で知られているシルバー様は、寿命が短くて、すぐに老いる種族を、皆殺しにしようと、世界各地に絶滅収容所を建設していたらしいですよ?」


「うーん、俺、本当にそんな事やったかな?」


『妖精さん……銀髪ロリに嘘を付きすぎだお……』

『未来のヒトラーですな、妖精さん』


「シルバー様が忘れているなら、それで良いんです。

絶滅政策なんて儲かりませんし。

まぁ、人間も豚人間も絶滅した方が良いと思いますけどね。でも数が多すぎますし、そもそも『夢幻』が紛れ込んでいたら、対処が大変ですし」


プラチナがこの話題を強引に終了させ、シルバーの小さな両手を握り、別の話題を提供した。


「でも、良い種族名ですよね!ハムスターマン!

リザードマン並の扱いになっちゃうところが良いです!

全族共和が成功した暁には、人間をハムスターマンって呼んであげましょう!」


『可愛らしい種族名でござる』

『うむ……未来世界では、人間(ホモ・サピエンス)が何と呼ばれているのか気になるな……。

いや、そもそも人間は生存しているのだろうか……?』

『プラチナたんも妖精さんも、細胞が機械で出来ている謎生物だお。まともな細胞を持っている生物はいないのかお?』


ネットの皆が抱いているであろう疑問。

シルバーも気になった。本物の人間はどこに住んでいるのだろうか?

どうやって、探せば良いのか検討もつかない。

エルフにそっくりだけど、老いる種族はどこにいる?ど聞けばいいのだろうか。

そのような事をシルバーが考えていると、プラチナは名案を思い浮かんだような良い笑顔で――


「そうだ!

今回の誅伐の様子を、各集落の代表に見せれば、きっとシルバー様におとなしく従ってくれますよ!

名づけてっ!シルバー様の凄さを伝えよう作戦です!

最小限の犠牲で、おっきな国を作りましょう!」


『良い嫁だお』

『うむ……いつも前向きなところが素晴らしいな……』

『いや、これサイコパスの特徴だぞ……罪悪感をほとんど感じずに、どんどんやりたい放題やってる時点で……でも可愛いから許す』


「こうなったら動く骸骨も9割方動員しましょう!

留守はエルフィンに任せるとして、どれくらい賠償金取りましょうか?

やっぱり、戦費の負担と、レンタル料金10倍くらいが丁度良いですかね?

支払い能力がなかったら、ハムスターマンをたくさん、奴隷にすれば良いですし

あ、難しいなら皆殺しでも良いですよ?

今後の征服活動をやる際の、  見 せ  し め になりますから」 


「……ハムスターマンを殺しても問題は出ないのかな?」


「そりゃ問題になりますよ、シルバー様。

でも、指導者は舐められたら人生終了なんです。

やられたらやり返さないと、他の集落まで真似して、大混乱になります。

今なら犠牲者が最小限で済む、そんな決断をするタイミングなんです。

シルバー様は、僕よりも、政治経験豊富だと思ったんですけど……色々と忘れてしまったのですか?」


「ああ、全く思い出せないよ。

以前の自分が何をやっていたかなんてね。

今はプラチナのために頑張る、ただ一人の男だよ」


一人の領主として、一人の男として、シルバーがやる事は決まっている。

嫁達と領民の生活を守るために戦い、勝利する。ただ、それだけだ。

一応、情報があった方が良いから、詳しい生態をプラチナから聞こうとすると――彼女はとんでもない事を言い出した。


「でもよく考えたら人間……いや、ハムスターマンは、下手したら豚人間並に下品なクズですよ?

繁殖力も、男と女の両方が産まれる事を考えたら、豚人間並にありますし。

でも、寿命がたった30年な時点で、下等な生き物だと思いますね。

排泄奴隷や生産奴隷なんて制度を使っている集落がたくさんあるそうですから、下手したら豚人間以下かも……?」


「排泄奴隷?」


「ウ、ウンコを食べて処理する奴隷の事です!」 プラチナは顔を赤らめて叫んだ。


『銀髪ロリにウン●発言させる妖精さんが、まじ鬼畜』

『そういえば、妖精さん、トイレでウンコした事あったか……?』

『確かに妖精さん、一度もトイレでウンコ……?いや、三回くらい行ったけ……?』

『身体を構成している細胞がロボットな時点で、食べ物をほとんど消化・吸収している件』

『恐らく、体内の要らない物質を、お尻以外から出しているな……そうじゃないと、妖精さんがオシッコばっかりやっているのは可笑しい……』


トイレすら監視される生活しているショタ妖精は、恥ずかしい気持ちになった。

このまま、下世話な質問を続けるかどうか悩んだが、知らないままで済ますのは良くないと思い、シルバーは残酷にも言葉を続ける。


「生産奴隷って何だ?」


「子供をひたすら産むのが仕事のメスです。

だから、数だけは豚人間並にいるんですよね、人間……いや、ハムスターマンって。

生態も、僕達と全然異なりすぎて、なんか共存が難しそうなんですよね……見ているだけで気持ち悪いというか。

なんで、あんな生物がいるんでしょう?

豚人間はエロくて下品ですけど、人間は怖くて下品です……」


恐ろしいほど大量にいる。

そのことに疑問を抱いたシルバーは、転生する際に見た、キャラクターメイキング画面の種族欄を思い出した 。

~~~~

①猫 宗教的に優遇されています。

★②人間 滅亡寸前です。☚

③リザードマン 湿地帯で大勢力を誇っています。

④豚人間  最大勢力です、難易度イージー。

⑤エルフ 繁殖力が低い不老種族です。エルフ娘にはボーナスあげます。

⑥吸血鬼 タフな化物です。

⑦精霊 エルフと仲がいいです。

⑧ゾンビ こいつ腐ってやがる。

⑨デュラハン 鎧です。錆びます。

⑩ホビット 絶滅しました。この種族を選んだらボーナスあげます。

⑪ドワーフ エルフと仲が悪い筋肉マッチョです。

~~~~~


神様と言っても良い存在から見た『人間』は、絶滅寸前のはずなのだ。

豚人間並に大繁殖しているかもしれない時点で、全く違う種族名があるはずだ。

人間ではない鼠どもが、『人間』を名乗るのは、不愉快にも程がある。


(可笑しい……観察系お姉さんは、人間は滅亡寸前だって言ってたはずだ。

そんなに数がたくさん居る時点で、絶対に、ハムスターマンは、人間(ホモ・サピエンス)のカテゴリーに入っていないという事になるだろ?

一体、どういう事なんだっ……?)


『人間はどこにいるん?』

『未来世界とは悲しいものだ……人間がほとんど居ないとはな……』

『それより、子作りはよ。

戦争前に、脱童貞はよ』

『まだ、エルフィンたんにパンツをプレゼントしてないお!早くパンツをプレゼントするんだお!』


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