四章「人間様の村」編

035「妖精さん、帰還を諦める」 4章プロローグ

元いた場所に帰れるかもしれない。

そんな素敵な可能性を、ネットの皆から聞かされたシルバーだったが――今の自分には嫁が二人いる。

彼女達を放り出して、日本に帰る訳にはいかない。

そもそも、マンションで死んだ時点で、日本国籍は消滅したも同然。

日本に帰っても、不法入国者扱いされておしまいだ。


「俺……妻が二人もいるんだが?」


『しかも、領地持ち・領民持ちだな』

『今、帰ったら、無責任男コールの嵐の後に、社会的に殺される事は間違いないお』

『日本に帰っても、俺らに見られてるんじゃね?

だとしたら、24時間、居場所がネットに流れて、休まる暇もないぞ』


「もしも……俺が、嫁の二人と一緒に、21世紀の日本に帰ったら……どうなるんだ?」


『誘拐されて、人体実験動物扱いだお?』

『東アジアは、世界最大規模の奴隷市場がある場所だぞ……。

きっと妖精さんも、エルフィン達も徹底的に人体実験された後に、バラバラにされると思うな……』


「え?日本って危険地帯なのか?」


『すぐ隣に、地球最大規模の奴隷市場がありますが、何か?』

『すぐ隣に、他国民を拉致して、教官として運用する拉致国家がありますが?』


そうだった。

シルバーの故郷がある日本は平和だが、西に少し行けば、地球最大規模の奴隷市場がある。

地球最大の臓器市場もある事で、昔から有名だ。

妖精の身体で帰ったら、政府に保護でもされない限り、悲惨な末路を辿るだろう。


「そうか……おかげで諦めがついたよ。

どうせ、一生かかっても、二つの世界を行き来する方法なんて見つからないだろうし。

そんな話、一度も聞いた事ないしな……」


『諦めるのが早い!?』

『日本に家族はいないのかお?

オラが伝えてあげるお』


「なんか、思い出せない。

死因は思い出せるんだが……俺って家族いたっけ?」


『うむ……恐らくは、死んだ時に記憶が欠落したのだろう……』

『そういえば、シルバーと名乗っている時点で……前世の名前すら覚えてないって事じゃ……?』


「ああ、思い出せない。

本当の名前は、100%思い出せない自信がある」


シルバーの言葉に、悲壮感はなかった。


「でも、今の俺は、プラチナの理想を叶えてあげたいんだ。

エルフィンも可能な限り、幸せにしてやりたいんだ。

そのために、ここにいるって気がする。それに領主に出世したと思えば、お得だろう?」


『惚気だ!』

『リア充のセリフだ!』

『恐怖政治するプラチナたんより、エルフィンたんの方が良いと思うお?』

『正直……プラチナは、周りに恐怖をバラ撒きすぎているな……。

まぁ、為政者としては正しいのだろうが……』


「確かに、他人から見たら、プラチナは、倫理観が可笑しいサイコ女に見えるかもしれない。

でも、彼女は彼女なりに、領民が幸せになれるように頑張ってきたんだ。

一人くらい、彼女を支えてあげる男が居ないと、プラチナはもっと駄目な娘になる気がする……」


そのショタ妖精の言葉が終わると同時に、隣で眠っていたプラチナが目を開けた。

シルバーは激しく動揺する――今までの会話を聞かれていたかもしれないだけに。


『ま、まさか!?』

『盗み見聞きか!?』

『きっと、妖精さんが独り言を言う痛い奴にしか見えないと思うお』


美しい銀髪ロリはゆっくりと、腰を起こし、視界にシルバーをおさめて、眠そうな顔で微笑んでくる。


「ふぁ~、シルバー様、おはようございます~。

ご飯にしますか?

……それとも僕を食べます?」


「うん、おはよう、プラチナ。

美味しいご飯を頼む」


彼女のためならば、もっともっと頑張れる。

シルバーはそんな気がした。


『子作りを未だにやっていない童貞がいますぞ』

『プラチナたん可愛いのに、手をつけてない時点で、草食系男子すぎる……。

勇猛果敢な妖精さんは、ベットの上には存在しないというのか!絶望した!』

『やだ、この妖精さん……純情なショタだわ』

『プラチナたんが羨ましいお』

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