034「都市長、黒幕っぽい事をする」幕間C
スエズ運河。
偉大なる先史文明が、膨大な数の農民を犠牲にした果てに作りあげた巨大運河。
しかし、悠久の時が過ぎ去り、運河は土に埋もれて綺麗さっぱり消え、代わりに一つの港町に、その名を残している。
商人による自治都市スエズだ。
この地域の海上交易網の要であり、膨大な富がここには流れ込んでくる。
豚人間も、その富の輝きと、可愛い娼婦達の魅力に屈する以外の道はなく、今の所はこの地は平和だ。
そう、平和だった。
だが、それは破られそうになっていると、都市長であるタヌキモンは、実感するしかない。
各地にいるスパイから届けられる情報が――港町の北部の村々が、強大な力を持った妖精によって、次々と征服されているという事実(笑)を裏付けているからだ。
「これは困ったぞ。困ったぞ」
あまり困ったように見えないタヌキモン――青い狸は、牛革張りのソファーに身体を横たえた。
小さくて軽い体型のせいで、少ししか沈まない。名前の通り、狸らしい毛むくじゃらの顔をしている。
「本当に困った事になったぞ。
情報があまりにも少なすぎる。
これでは、どのような賄賂を贈れば良いのか、分からないではないか」
商人の武器は、情報と富と人脈だ。
情報が無ければ、確実な利益を上げられない。ゆえに狸顔を少し歪めて、困ったふりをする。
どうせ、情報はやってくるのだ。
スパイ達は金を得るためならば、雇い主すら売る輩。
情報は待っていれば、必ずやってくる。
ちょうど、執務室の外から――扉を軽く叩く音がした。
「都市長、亡命を希望している豚人間が来ております」
それは聴き慣れた、年老いた執事の声だ。
タヌキモンは、情報を持ってきた存在が、醜悪すぎる化け物だった事に、顔を嫌そうに歪めた。
だが、情報はお金になる。だから、すぐに利益の天秤にかけて、商人らしくお金を優先する。
「武装を解除させて、ここに寄越せ。
……ちなみに、その豚人間が所属していた集団は?」
「ボコハラム党の族長です」
「ボコハラム党……!?
ま、まさかっ……!?」
「女の子の顔をボコボコにした後に、種付けするのが趣味の変態集団と聞いております」
都市長は、嫌そうな顔を、さらに、とっても嫌そうに歪めた。
(全く……豚人間の中でも、特にタチが悪い性癖ではないか……。
出来れば、オッパイ党辺りの連中がくれば良かったものを……ああいう平和な集団ならば、幾らでも支援してやるのだがな。
……そういえば、最近来ないな。オッパイ族長。
素晴らしい巨乳エルフ娘と巡りあったと連絡してきてから、音沙汰がない……。
恐らく、死んだのか、『夢幻』らしく、力に飲まれたのだろうか?
これだからジャイナなぞという邪神を信仰する輩は困る)
タヌキモンは、そのオッパイ族長が、既にあの世でゆっくりしている事を、後日、知る事になる。
肉体を分離して、バラバラ死体状態で行動できる豚人間をどうやったら、倒せるのか、検討もつかなかったが。
~~
部屋に案内された豚人間は、背丈が3mはありそうな巨漢だ。
この世で最も厄介な化け物――『夢幻』ではあったが、能力は戦闘の役に立たない、とっても平和な力だ。
白濁な液体を作る能力。それを美少年に浴びせると、とっても可愛い美少女になる。ただ、それだけ。
豚人間の間では、とっても好評で、白濁な液体が高値で取引されていて、ボコハラム族長もよく港町に、売りに来ていた。
「タヌキモン殿には、大変お世話になっているブヒィ。
今度も助けて欲しいブヒィ。
性転換薬なら、今日から半額で売るブヒィ」
「ボコハラム殿。
まずは何があったのかをお聞かせ願いたい。
商談はそれからです」
タヌキモンは、目の前の豚人間に、嫌悪感を感じながらも、不敵そうに微笑んだ。
そうすると、ボコハラム族長は、鼻息を荒くして話を始める。
「と、とんでもない、絶世の美少女だったブヒィ。
銀髪が輝いていて美しい妖精だったブヒィ」
「は?」
「でも、とんでもない妖精だったブヒィ。
俺は何も悪い事をやっていないのに、いきなり山を砕く魔法で、俺達を生き埋めにしたブヒィ。
次に出会ったら確実に殺されると思って、ここに急いでやって来たという訳ブヒィ」
「よ、よく生きておられましたな」
「運命の神様は俺の味方ブヒィ。
たくさんの美少女をボコボコにして孕ませる、俺の平凡な趣味にケチを付けて殺そうとする……頭が可笑しい妖精娘だったブヒィ。
捕まえる機会があったら、綺麗な顔をボコボコにして、たっぷり、子種を流して込んでやるブヒィ」
「……ボコハラム殿。
俄かには信じれない話ですなぁ。山を砕く魔法を使えば、どんな存在でも、『運』を消費し尽くして、破滅してしまうでしょうに」
魔法は、運を消費する。短期間に大量に消費すれば、悲惨な末路が待つ。
かといって、夢幻の力を扱えるのは、豚人間や、それから派生した化け物だけだ。
つまり、妖精娘が犯人だとすると、山を砕いたのは、魔法とも、『夢幻』とも違う力という事になる。
謎は深まるばかり。タヌキモンの頭脳が、もっと情報を求めている。
(妖精にそんな事ができるはずがない。
きっと、妖精の近くに、夢幻の力を持った化け物が近くにいた。
恐らく、目の前の豚が勘違いしているのだろう。
女に目がない役立たずね)
タヌキモンが黙っている間も、ボコハラム族長は話を好き勝手に続けている。
「でも、本当の事ブヒィ。
俺の所以外も、次々とやられて、もう地獄ブヒィ。
俺が小さい頃から苦労して、美少女を誘拐して作り上げたハーレムライフが、卑劣な手段で終わってしまって残念ブヒィ」
「大変でしたなぁ。
それで?他に何か情報は?」
「妖精娘は、この世の者とは思えないくらい美しい女の子だったブヒィ。
あの顔をボコボコにして、孕ませてやりたいブヒィ。
美しい顔を見るだけで、股間が元気になるブヒィー」
「はははは。
ボコハラム殿は好きですなぁ。
それで……他に何か情報は?」
「そういえば、シルバーって名乗っていたブヒィ。
女の子らしくない名前で残念だったブヒィ。
俺の嫁になったら、シルって改名させて、俺の子種をずーと飲ませ続けてやるブヒヒヒヒッ!」
巨漢の豚は、肥溜めのような印象を植え付ける笑い方をした。
タヌキモンは、商売時の営業スマイルで、内心の怒りと、憎悪を隠す。
(俺は、貴様に煮えたぎった溶岩を飲ませてやりたいな……。
全く、この世界は汚れている。
こんな豚どもと取引しないと、存続できない都市に、意味があるのだろうか……?
繁殖力が旺盛なだけの豚め。
諸悪の権化の人間どもと一緒に消えてなくなればいいものを……)
~~~
一通り、豚人間から情報を聞き終えたタヌキモン。
彼は、『用済み』になったボコハラム族長に、冷たい笑みを見せて、高級な調度品で溢れた部屋から追い出そうと――
「それではボコハラム殿。
案内人を付けるので、ぐっすり宿でおやすみください。
可愛いエルフの美少女が待っておりますぞ。
幾らでも殴っても構いませぬ」
「それはありがたいブヒィー!
これからも世話になるブヒィー!
心の友ブヒィー!」
「ええ、こちらこそお願いしますぞ。
存分に、エルフ娘でお楽しみください」
そう言ってタヌキモンは、ボコハラム族長を椅子から立たせ、部屋から追い出した。
とても自然な流れだったから、ボコハラム族長は追い出された事に気がつかない。
自分の意思で、部屋の外に出た。そうとしか思えなかった。
タヌキモンは、執事に命令して、部屋の窓を開けさせ、両目を瞑り、静かに耳を澄ませる。
数分すると――家の外で、豚の醜い悲鳴が上がる。ボコハラム族長の声だ。
「お、お前らは何をするブヒィー!
ぎゃぁー!俺の逞しい腕がぁぁぁぁ!!
や、やめるブヒィー!
俺が死んだら、この世界は終わりブヒィィー!この世は暗黒に包まれ――ぶぴっ!」
醜い豚は死んだ。
そう、すぐに理解したタヌキモンは、心の底から安らぎを感じ、ソファーに身を沈める。
役に立たない豚人間を、すぐに処分した。ただそれだけだ。
「貴様の能力が暴走すれば、都市中、女の子だらけになってしまう。
たくさん儲けさせてもらったが、今日でおさばらだ。ボコハラム。
自分が『夢幻』である事を恨むが良い」
このような醜い記憶を残すのも勿体無い。そう思ったタヌキモンは、すぐに次の課題に取り掛かる。
美しい妖精娘。それ自体は良い。
豚人間のほとんどが言うように、可愛いはやはり正義なのだ。
だが、問題は――とんでもない武力を持った何かがいるという事実。
山を砕く力。これはありとあらゆる戦術を無意味にし、数の暴力を封殺できる事を意味する。
夢幻だとしたら厄介だ。下手したら、このエジプトの大地は――先史文明の頃のような、砂漠地帯に戻るかもしれない。
「ふむ……困ったな。
このままでは俺は、考えすぎて過労死するやもしれん。
情報があっても、どう活かせばいいのやら……」
『夢幻』には、惑星すら理論上では破壊できる存在がいるという。
そんな存在がいたからこそ、繁栄した先史文明は崩壊したのだ。
正直、タヌキモンの知恵では、これ以上、何も思い浮かばない。
もっと情報が欲しかった。
「いや待てよ?
妖精娘が近くにいたという事は……少なくとも自我がある『夢幻』か。
つまり交渉できるという訳だな。
たくさん亜人の美少女を用意すれば、なんとかなるだろう。
『夢幻』なら、きっと豚人間に違いない。あの下半身の欲求に正直すぎるバカどもの事だ。
きっと、すぐに俺の重要性とやらに気づくであろう。
山を砕く力があれば、豚人間を一掃できるやもしれんなぁ」
部屋に、静かな狸声が響く。
ボディガードさん達は、最初から最後まで、ずっとこの場にいたが、会話をする機会がなかったから、存在感がゼロだった。
『妖精さん!あんな所に、港町がありますぞ!』
『あっひゃー!海上交易網で儲けて美味しそうだぁー!』
『アラビアン~』
「港かぁ……いいなぁ……
きっと、金銀財宝がたくさんあるんだろうなぁ……」
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(´・ω・`)なお、次の章の敵が『惑星破壊級の化け物』でござる。
アメリカ合衆国ごと、地球をぶっ壊せる感じ。
妖精さん (´・ω・`)難易度ばっかり上げてどうするんだ!?
【内政チート】「俺はグリボーヴァルシステムで、大砲を規格化してチートする!」18世紀 のフランス
http://suliruku.blogspot.jp/2016/04/18.html
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